連載第61回
行政監視に加わる弁護士の役割
『ねっとわーく京都』2009年8月号掲載
吉本 晴樹(弁護士)
「ねっとわーく京都」読者の皆様、はじめまして。本年より「市民ウォッチャー・京都」に参加しております弁護士の吉本です。弁護士になってようやく半年が過ぎたところですが、担当している事件の数も増えて、それなりに忙しい毎日を送っています。
弁護士の仕事といえば、金の貸し借りや離婚といった民事事件が中心で、たまに刑事事件があるというのが一般的です。司法試験の科目も、これまでは憲法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の6科目で、やはり民事・刑事が中心にありました。
ところが、今般の司法制度改革により、2006年から“新”司法試験制度が開始し、試験科目に新たに「行政法」が加わりました。「行政法」とは何かについては、学問上は様々な議論があるのですが、ここでは「行政が行う諸活動の根拠となり、かつその諸活動を規律する法である」と説明しておきます。
行政法が司法試験の必須科目に据えられたことには重大な意義があります。その背景としては、近年、行政手続制度や情報公開制度が整備され、自治体行政において新たな法環境が構築されたことや、行政事件訴訟法の改正により、住民が自治体行政に対して提起する争訟が増加していることが指摘できます。このような高まる社会的ニーズに応えるために、弁護士が当然に行政法を知っておかなければならない時代になったということでしょう。
そういうわけで、私も、これまた司法制度改革により導入された法科大学院(ロースクール)で行政法を学び、行政法の試験を受けて弁護士となりました。ところで、司法試験史上初の問題漏洩事件が起こったのが、私が受験した年の行政法の試験だったのですが、その話には触れないことにします。確かに、行政法には民法や刑法のような統一法典がないので、勉強がしづらい科目と言われているのですが、そのエッセンスはシンプルです。学問上は「法律による行政の原理」と呼ばれるのですが、要は行政権力は放っておくとロクなことをしないから、法律で縛らなければならないということです。行政法が必須科目になったということは、法律の専門家たる弁護士は、行政法に通暁して、行政の不正を絶えず監視せよというメッセージなのだと私は理解しています。
さて、「市民ウォッチャー」において私が最初に担当したのが、保育園連盟による市補助金の不正流用事件です。新聞報道等でご存じの通り、京都市内の民間保育園で作る「市保育園連盟」が、市から受けていた補助金の余剰金を目的外に流用していた事件で、その額は2007年度までの8年間で約2億7000万円にも上ります。
この不正をただすべく、初春のある日、私はO弁護士が起案した措置請求書を携え、一人で監査請求に赴いたわけですが、監査事務局の担当者からダメ出しをされてしまいました。担当者曰く、市の連盟に対する支出を監査請求の対象行為とするなら、市の連盟に対するどの支出行為であるか1件1件特定せよというのです。「そんな行政内部の個別の支出なんか知るわけないやろ」と言いたくなったのをグッとこらえて、いそいそと退散したのですが、普通の市民が監査請求に来ても同じ対応をするのかと疑問を感じました。住民監査制度は、住民が自らの住む自治体の不正をただすいう「住民自治」の思想に基づく制度ですので、あくまでも普通の住民にとって利用しやすい制度でなければならないはずです。確かに支出行為についての情報公開請求をすればいいのですが、時間と手間がかかります。
結局、O弁護士らと相談の上、対象行為を「市が連盟に余剰金を返還させることを怠ったこと」(いわゆる「怠る事実」)に変更した補正書を提出し、受理させました。地方自治法の細かい条文とにらめっこしながら補正書を書いたのですが、(行政の不正に怒る)普通の市民がそこまでするのは大変だろうと思います。だからこそ、弁護士が、行政の監視に加わらなければいけないのだと改めて認識させられました。
今後とも頑張っていきますので、市民の皆様、ご支援よろしくお願いします。