住民訴訟のさらなる改善を!


連載第63回 『ねっとわーく京都』2009年10月号掲載

奥村 一彦(弁護士)

これまで行ってきた住民監査請求や訴訟において、法改正を含め改善を要するのではないかと思われる点がしばしばあり、いくつかの点について具体的な事案に沿って問題点と立法論あるいは改善方法を述べたい。

1 監査委員の責任問題

監査委員の責任問題というのは、ほとんどの監査請求は棄却されるが、裁判では覆ることがしばしばある。これは監査が機能していないことの証明である。その原因として、監査委員が首長の任命にかかるという根本的欠陥をもつ制度であること、従って本来は監査という第三者的立場からの「ご意見番」意識の欠如をもたらすこと、裁判で監査結果が覆されても責任を問われないこと、などが考えられる。

そこで、監査委員を住民など第三者の選任にかからせること、裁判で監査結果が覆ったときは首長や事務職員の責任だけでなく、監査委員にも責任をとらせることが必要である。監査の内容や結果について故意過失があることを要件とすればよい。その具体例として、京都市水道局の土地上に水道局の予算3400万円を使い、ある特定の人物のために家屋を建て、しかも10年以上も無償(家賃は無償、光熱費や電話代も市民持ち)で住まわせた監査で、監査委員らは違法はないと結論したが、裁判所は違法を認定した。これなどは監査委員の責任が問われてしかるべきである監査と言わざるをえない。

2 監査請求の期間制限(1年以内)の問題

監査請求には期間制限があり、行政の行為があった日から1年以内を原則とし、1年を超えてから監査請求する場合には「正当な理由」を必要とすることになっている。

その「正当な理由」は、普通の住民が「相当の注意力もって調査すれば客観的に見て…当該行為の存在及び内容を知ることができたと解されるときから相当な期間内」であったかどうかで判断される。

これに関して、情報公開条例の整備をもって、情報公開すれば行政行為の有無はすぐに判明するので、監査請求はいつでもできることになり、その結果1年を超えるものは全部期間制限にかかるとする議論がある。しかし、いくら情報公開請求手続きが整備されたと言っても何らかの動機付けがない限り、なんでもかんでも公開手続きすることはない。費用も高額に上る。最近、ある事件で京都市は、平成4年以降は情報公開手続きがあるので、それ以後の監査請求は全部期間制限にかかると主張してきた。これがまかり通るなら1年を超えた監査請求は全部期間制限にひっかかる。

その主張が荒唐無稽なことはさておき、ここでは立法的に期間制限をなくすか相当長期の期間制限とすべきことを提案したい。それでは行政行為の安定性を損なうという説明がなされるが、不当な公金支出を正当化する必要はないし、賠償請求であれば自治体が潤うのであるから不当な結果をもたらすことはない。

3 議員の責任

公金支出が不当とされる場合にも、予算の議決など議会の承認を得ていることを正当化理由として行政が述べることがしばしばある。宮津市で、土地開発公社からの土地購入にあたり、その価格は不当に高額であったが、一応議会で議決されていることを正当理由のひとつにあげていた。また、議員は現行法では議員個人が問題となるケースをのぞき責任は負わない。

余談だが、これまでの裁判で、議会の議決があることにより原告住民の請求が棄却された事例は聞いたことがない。裁判所が議会の承認などどうでもいいと思っているのであるとしたら、悲しいけれど地方議会の現実をよく知っているのかもしれない。

しかし、住民としては納得がいかないだろう。損害を与えた議決に賛成した議員と反対した議員がいるからである。そこで、自治体に損害を生じさせた議決に賛成をした議員に対しては、執行機関が責任追及することができるので、それを法で明文化すべきである。これにより議員はこの議決が違法かどうか、賛成すべきか反対すべきかを良く考えるし、地方議会の活性化にもつながる。また、首長の責任をいくらかでも軽減する方策でもある。

4 条例による権利放棄への対抗手段

最近、首長に賠償が命じられても議会で回収しない議決や条例を通過させて、住民訴訟を骨抜きにする議会があらわれている。これを権利放棄というが、実際は相当な理由が要求される。この問題は、目下全国で裁判が行われているが、まず、回収の努力をしたかどうかが問題で、それでもやむを得ない場合には放棄できると明文化する必要がある。実は免除も後の問題がまっているのであって、賛成した議員には賠償請求が可能であるし、免除された首長側には税負担が生じる。

5 その他

弁護士費用の問題、専決権者の問題など多々あるが、次回以降述べたい。