京都に水族館は必要? 水族館建設阻止をめざす訴訟の取り組み


連載第84回 『ねっとわーく京都』2011年8月号掲載

諸富 健(弁護士)

1 市民不在の建設計画

広大な梅小路公園の一角に、大きな建物の建設工事が急ピッチで進められています。オリックス不動産が設置許可を申請し、京都市が許可した日本初の内陸型大規模水族館です。

2008年7月14日、オリックス不動産が京都市に水族館建設計画を正式に提案し、そのわずか二日後、門川大作京都市長が記者会見で水族館誘致構想を発表し、第三者委員会の設置や市民意見の募集を提案しました。市民にとってはまさに寝耳に水のことでしたが、実はオリックス不動産が京都市に働きかけを始めたのは2005年12月のことでした。約2年半にもわたって、市民に知らせることなく、水面下での協議が進められていたのです。

なぜ海のない京都に水族館?と市民が疑問を抱いたのは当然のことでした。2008年9月〜10月に京都市が公募した市民意見では、実に7割の市民が水族館建設に反対したのです。ところが、第三者委員会としての「京都水族館(仮称)整備構想検討委員会」は、2008年12月14日、設置は妥当とする答申を提出しました。これを受けて京都市は、一気に計画実現へ向けて動き出し、2010年5月14日、水族館施設設置を許可するに至ったのです。

地元説明会も何度か開かれましたが、質疑応答時間も十分確保されず、納得のいく説明はなされませんでした。形ばかりの説明会だったと言わざるを得ません。こうして、水族館建設計画は、市民不在のまま進められてきたのです。

2 水族館建設の問題点

水族館の建設には様々な問題点が山積しています。

まず、梅小路公園は広域避難場所に指定されていますが、そこに年間200万人の来場者を予定している約1万平方メートルの水族館を建設すれば、広域避難場所の機能を害することは明らかです。このたびの東日本大震災で、広域避難場所の重要性はますます明らかになりました。

次に、水族館の建設により、CO2の大量排出、環境基準を超える騒音の発生、大気汚染の拡大、交通渋滞の発生など環境悪化が懸念されています。ところが、京都市は環境に対する影響を評価するための手続を実施しようとしません。

また、水族館は「教養施設」と位置づけられているのですが、設置予定の水族館はオリックス不動産が建設・運営するものであり、その実態はイルカショーを目玉とした商業施設ではないかと考えられます。

さらに、イルカを本来生息しているところから引き離して人工海水の狭い水槽下で飼育し、イルカショーを強要することは、生物多様性の観点から著しく問題があります。先日、名古屋の水族館では、飼育されていたイルカがジャンプの練習中に誤ってプールを飛び出して転落死したという記事が報道されました。

3 取消訴訟の推移

こうした様々な問題点があるにもかかわらず、水族館の建設が強行されたことについて、緑豊かな憩いの場として利用してきた市民が黙っていられるはずがありません。2010年11月9日、71名の市民が原告となって、水族館の設置許可の取消しを求めて、京都地方裁判所に提訴しました。これまで、3回の弁論期日が開かれていますが、毎回原告の方に、梅小路公園に対する思い、水族館建設に対する怒りなど、意見を述べてもらっています。期日の後には報告集会を開き、期日の内容や今後の経緯の説明、意見交換などを行っています。

東日本大震災を受けて、各地で地域防災計画の見直しが重要な課題となっていますが、水族館建設は何の見直しもされないまま着々と進められ、来年2月には竣工・引渡しが予定されています。しかし、原告らはあきらめていません。この訴訟を通じて、水族館建設を阻止するためにたたかっています。是非、多くの市民のみなさんに、原告らの訴訟の取り組みを支援していただきたいと思います。