連載第87回 『ねっとわーく京都』2011年11月号掲載
大河原 壽貴(弁護士)
先日、「京都・市民・オンブズパースン」と「市民ウォッチャー・京都」の共催で、シンポジウム「またしても京都市教委」が行われ、現在の京都市教育委員会の問題点が明らかにされました。そして、このシンポジウムの内容をもとにして、パンフレット「市教委の体質」が発行されています。興味のある方は、「市民ウォッチャー・京都」までお問い合わせください。
さて、京都市教育委員会の問題点については、上記のシンポジウムをはじめとして、様々なところから指摘されているわけですが、教育行政が本来なすべき教育環境の整備について、現在どのような実態となっているか、様々な角度から検証していく必要があります。
そこで、今回取り上げたのは、各小学校ごとの運営費です。学校を運営していくのには当然お金が必要となるわけですが、その学校運営費の実態を見てみることとしました。なお、児童数及び運営費については、いずれも2010(平成22)年度のデータとなっています。
京都市には、児童数5名の雲ヶ畑小・宕陰小から、児童数1117名の御所南小まで、様々な規模の小学校があります。今回は、比較的同じくらいの規模の小学校間で「児童1人あたりの運営費」にどれくらいの違いがあるのかを検討しました。次の2つの表は、児童数が401名〜500名、501名〜600名の小学校について、それぞれ児童数と児童1人あたりの運営費を一覧にしたものです。
小学校 | 児童数(人) | 児童1人あたりの運営費(円) |
---|---|---|
A(伏見区) | 404 | 35,191 |
B(西京区) | 405 | 34,283 |
C(伏見区) | 405 | 37,309 |
D(上京区) | 409 | 44,966 |
E(右京区) | 413 | 34,380 |
F(左京区) | 416 | 36,446 |
G(伏見区) | 420 | 30,320 |
H(南区) | 421 | 41,198 |
I(伏見区) | 425 | 29,586 |
J(右京区) | 429 | 34,552 |
K(西京区) | 432 | 33,669 |
L(西京区) | 435 | 40,214 |
M(右京区) | 436 | 34,444 |
N(西京区) | 436 | 31,550 |
O(北区) | 437 | 35,659 |
P(上京区) | 438 | 48,232 |
Q(伏見区) | 449 | 34,768 |
R(左京区) | 452 | 41,030 |
S(伏見区) | 464 | 37,755 |
T(山科区) | 465 | 32,555 |
U(西京区) | 466 | 30,462 |
V(南区) | 467 | 37,059 |
W(西京区) | 497 | 29,343 |
X(南区) | 499 | 35,604 |
小学校 | 児童数(人) | 児童1人あたりの運営費(円) |
---|---|---|
ア(右京区) | 510 | 32,149 |
イ(北区) | 516 | 31,714 |
ウ(右京区) | 518 | 38,773 |
エ(右京区) | 526 | 31,197 |
オ(伏見区) | 526 | 30,714 |
カ(西京区) | 530 | 25,474 |
キ(南区) | 549 | 28,129 |
ク(下京区) | 551 | 49,967 |
ケ(中京区) | 553 | 26,705 |
コ(中京区) | 564 | 34,131 |
サ(伏見区) | 567 | 30,877 |
シ(西京区) | 568 | 28,108 |
ス(伏見区) | 574 | 36,869 |
セ(南区) | 574 | 29,458 |
ソ(山科区) | 578 | 27,458 |
タ(山科区) | 580 | 29,202 |
チ(上京区) | 591 | 38,474 |
ツ(左京区) | 594 | 29,722 |
テ(西京区) | 596 | 30,764 |
全体としては表1、すなわち児童数401名〜500名の小学校の方が児童1人あたりの運営費は高くなる傾向にあります。施設維持のための最低限度の費用などのことを考慮すれば、そのこと自体、特に不思議ではありません。問題なのは、同じ規模の小学校間での児童1人あたりの運営費の格差です。
つまり、表1で言えば、P小学校(上京区)の4万8232円とW小学校(西京区)の2万9343円の差、表2で言えば、ク小学校(下京区)の4万9967円とカ小学校(西京区)2万5474円の差です。特に後者は2倍近い格差があり、とても見過ごすことはできません。
格差を拡大?「かがやき創造事業」
この格差をつくる原因の一つとなっているのが「かがやき創造事業」という施策です。この「かがやき創造事業」というのは、放課後や休日・長期休業期間に、希望する児童生徒に対して体験活動を実施するというものです。
つまり、この施策は、(1)実施する学校と実施しない学校とがあり、(2)実施する学校の中でも、参加する児童生徒と参加しない児童生徒とがある、という条件下で、(1)実施する学校の(2)参加する児童生徒にだけ予算を配分するというものです。
このような事業について、やる気のある学校、児童生徒に予算を使うことを是とされる方もいるかもしれません。しかしながら、子どもの貧困・格差の拡大や固定化が深刻な社会問題となっている中で、公教育における予算の使い方として、それが本当に正しいのか、疑問を感じざるを得ません。また、この事業は、ただでさえ長時間過密労働となっている先生方に、さらなるサービス残業を強いているのではないかという疑念もあります。
実際には教育と関わりなく費消されている運営費
上の2つの表でそれぞれもっとも児童1人あたりの運営費が高くなっている「P小学校」と「ク小学校」は、いずれも新設された統合校です。この2つの学校の運営費が突出しているのは、実は空調システムにあります。全館空調システムを採用したがために、光熱費が他の学校よりもかかっているのです。わかりやすく言えば、使っていない教室のクーラーを稼働させるために予算が費やされているのです。
京都市は、エコや省エネはもちろんのこと、特にこの夏は、節電を市民に対して呼びかけていました。その一方で、誰もいない教室のクーラーを稼働させて、税金を費消しているのです。たとえ学校運営費に多くの予算があてられたとしても、それが子どもたちの教育のために使われるのであれば、私たち市民も納得することができます。しかし、子どもたちの教育と関係ないところで税金がムダに使われているのでは、およそ理解はできません。
公教育にふさわしい税金の使い方を
先に述べたように、子どもの貧困・格差の拡大と固定化は、本当に深刻な社会問題となっています。公教育には、まさにその防波堤となる役割が求められています。大阪では、子どもたちに自己責任を押しつける「教育基本条例」が提出されようとしており、大問題となっていますが、公教育の役割を放棄したものと言わざるを得ません。京都市には本来、公教育がなすべき役割をより充実させ、それに見合った税金の使い方をしてもらいたいと思います。
学校運営費の問題については、引き続き検討していきたいと思います。