京都マラソンにみる強引さと稚拙さ


連載第89回 『ねっとわーく京都』2012年1月号掲載

中野 宏之(京都市教職員組合)

今、京都市内の学校では、京都マラソンをめぐって疑問や怒りの声が渦巻いています。京都市教育委員会は、京都市当局の強い要請をうけて、(2011年)10月1日付で、学校現場で教壇に立ち教育活動を行っていた4人の教員を、子どもたちから切り離し、2012年3月11日に計画している「京都マラソン」の準備のため、体育健康推進室への異動を強行しました。

具体的に命じられたのは、小学校2名、中学校2名の教員で、副教頭、体育の教師などです。その中には新採教員も含まれています。また、実際に辞令が出た後の10月に入っても、すぐには代替の教員が配置されず、授業を行っていた教員もありました。どの学校でも校長などの学校関係者と本人に知らされたのは、9月中旬過ぎで、9月25日以降の学校もありました。全く「寝耳に水」で、管理職を含めて、「考えられない人事」と市教委へ再考を求めた学校もあります。実際に市教委は、断られた人もあったと述べています。

異動を余儀なくされた教員の中では、学校で離任式を行い、多くの保護者や卒業生が訪れて、別れを惜しんだ学校もあります。また、「部活動の指導は続けられるのか?」と心配した教員もあります。市教委は、「代替教員を入れて、現場には迷惑をかけないようにした」と説明していますが、これは、教育活動が人と人のつながりによって営まれていることを無視した言い分です。

では、今回の人事に必然性はあったのでしょうか。もちろん、学校現場でも緊急の人事異動が必要な場合もあります。例えば、今回の東日本大震災のような緊急事態に派遣が必要になるなどです。それでも慎重な検討が必要です。4人の教員が行う仕事は、京都マラソン開催のための準備作業です。どうしても現場の教員が行わなければならない仕事でしょうか?

かなり前に大文字駅伝の指導をしたことがあるとか、現場で体育を教えていることがどれほどこの作業に役に立つのでしょうか。市教委内部や教員OB、ボランティアなどの検討や人選は行われたのでしょうか。また、京都マラソンの開催は今年の4月以前に決まっており、どうしても必要なら4月の定例人事異動で人員を確保することもできたはずです。高校総体などが開催県になる場合はそうした措置がとられます。まさに、見通しのない「京都マラソン」の稚拙な運営が明らかになった事例ではないでしょうか。

京都市当局はこの間、市役所内を含めて「京都マラソン」の成功になりふり構わない市政運営を行っています。市役所内では、9月7日付の異動人事や10月1日付での前倒しで職員採用が行われてきました。門川市長は、市の財政難を理由に、市職員を4年間で1400人もリストラしてきました。

その一方で、「京都マラソン」のためには、平気で職員を前倒しで採用し、人手の足りない学校現場からも大切な人員を異動させています。これでは、「どちらを向いて行政を行っているのか」と市役所内や市民から疑問の声があがってくるのも当然のことです。

さらに、京都マラソンをめぐる異常な事態はそれだけではありません。京都マラソン開催日の「ノーマイカーデー」についてのアンケートと表する「署名」がすべての学校で子どもたちに配布され、提出が求められています。

その3つ目の項目は、「京都市は、門川市政の主要な柱として、『歩くまち・京都』のまちづくり施策を進めています。その中で、『できるだけクルマに頼らない暮らし』を、市民の皆様に呼びかけさせていただいております。その趣旨に賛同いただけますか?」と言うものです。そして、住所・氏名も書かせる内容となっています。アンケートと言いながら、門川市政の施策宣伝及び市政協力者かどうかを問うものとなっています。これを学校を通じて配布させる京都市の感覚に大変な違和感を覚えます。

また、この署名付きアンケートは、京都市内のスポーツ少年団(地域の野球などのスポーツチーム)にも、京都市教育委員会から送付されています。回覧板・学校・スポーツ少年団と3回受け取った保護者も多数あり、「これこそ税金のムダ遣い」との声も寄せられています。

今、大阪で教育基本条例が大きな議論となり、首長と教育委員会の関係が問題となっています。学校は市政の「下請け機関」ではありません。市当局から求められても、「おかしいことはおかしい」ときっぱり断るのが教育行政のあり方ではないでしょうか。