京都市会議員の高額海外視察、復活の動き


連載第101回 『ねっとわーく京都』2013年2月号掲載

豊田 陽(自営業)

市民からの批判や裁判所からの指摘を受けて、しばらくの間、自粛していた京都市の市会議員の高額海外視察(旅費一人当たり約97万円!!)が来年1月にも再開されようとしている。

旅費規程で定められている上限100万の限度枠いっぱいを使った約97万円の旅費。しかも、年度末にあちこちで行われる道路工事ように、海外視察の予算も今年度中に使ってしまおうかというような1月末の出発。いやが上にもこんなことを見過ごしていいのだろうかと思ってしまう。

とにかく京都市の市会議員と市民との金銭感覚には大きなずれがある。なぜ、市会議員の海外視察と称する市民の税金を使った「高額海外旅行」が自粛に追い込まれたのか?

議会のある時もない時も毎月約90万円の給料をもらう京都市の市会議員にとっては100万円近い旅費も、せいぜい自分の一カ月分の給料と同じ感覚なのではないだろうか。一方、いまや勤労者の1800万人が不安定な非正規雇用であり、またその70%が年収200万円以下の所得で暮らしている。

このような現実を考えると、市会議員の給料90万円は勤労者の5、6人分の月給であり、また今回、再開しようとしている海外視察も議員一人につき市民5、6人分の月給に相当する旅費がかかるのだということを議員一人ひとりが、まず自覚する必要がある。

ところが、海外視察の前段階として10月に行われた「京都市海外行政調査審査会記録」(議事録)を読むと海外視察再開を前提とした、かつ、視察後に起こされるであろう住民訴訟を意識したかのような発言が並んでいる。

従来の海外視察では十分な事前打ち合わせがなかったという批判を受けて、今回の審査会では学識経験者として大学教授1名を招いているが、結局のところ、実際に海外に行って「体感」することが大事だというお墨付きをもらっているだけである。(「やはりまずは基本的に感じていただくのが一番重要なのではないかというふうに思います」中川 京都大学大学院工学研究科教授 「第一回京都市海外行政調査審査会記録【ロードプライシング】p.9」)。「百聞は一見に如かず」ということわざの通り、実際に海外に行って「体感」することは、たしかに大事だろう。しかし市会議員が感じるために、一人100万円近い税金を使うことはいかがなものか。また市会議員の給料が勤労者並みならまだしも、毎月90万円近い給料をもらっているのである。「体感」するなら、自腹で行けばいいではないか。(おそらく、この教授も海外視察の旅費が幾らかについては、知らされていないのではなかろうか)。

さて、今回は2つの視察が計画されている。ひとつは「ロードプライシング」。聞きなれない言葉だが、要するに、京都市が一般道路に課金して「有料道路」を設定することである。おそらく嵐山や東山界隈のような観光地の混雑緩和を目的としたものだと思うが、いまだ地域住民や関係団体との十分な話し合い、擦り合わせができていないような状態で視察に行くことに意義があるのだろうか。

ちなみに、日本国内でこの制度を導入している自治体はないそうだ。(「国内では事例がない」民主党、穏塚議員 「第一回京都市海外行政調査審査会記録【ロードプライシング】p.3」)。うがった見方をすると海外視察を復活させるために、日本国内では見学できないという、このテーマ、視察目的を持ち出したのではないだろうかとさえ思ってしまう。

また、もうひとつの視察は「再生可能エネルギー」に関するもので、ドイツ各地とバルセロナを見て回る日程になっている。しかし「調査計画書」を見ると、京都市とは直接、関係のないような見学先や調査事項が出てくる。

「<オブリヒハイム原発立地自治体>平成23年6月、ドイツでは脱原発宣言により、17基あった原子力発電所のうち、建設時期の古いものを中心に8基の運転が取り止められ、残り9基も順次閉鎖していくことになったが、そのことにより、原発立地地域経済の立て直し、ついては、地元立地地域の雇用問題と地方財政の問題が生じると思われる。(中略)なお、調査事項については、以下の項目などを想定している。

① 廃炉に当たっての市民の反応
② 廃炉に関する技術的知見(放射能漏れの危険性回避の方法)
③ 廃炉することによる市民生活への影響(電気料金の上昇などの有無について)
④ 地域経済、地域雇用に関する影響
⑤ 地方自治体における財政上の問題の有無とその方法
⑥ 原発設備のリサイクル事業の概要
⑦ 脱原発に対する評価」とある。

何度も繰返して、市会議員が提出したこの「調査計画書」を読んでみたが、京都市の市会議員が市民の税金を使って、ドイツの原子力発電所を見学する意義がよく理解できない。上記①〜⑦の調査項目を今後、市政にどう活かすのだろうか。廃炉作業に関心があるなら、自腹で行けばいいではないか。

また従来の海外視察は、JTBなどの大手旅行会社にすべて丸投げしているという批判があったので、今回、このドイツとバルセロナ視察では、ドイツ在住の日本人が設立したNGOにコーディネートを頼んでいる。

しかしながら、このドイツの原発見学を見てもわかるように、単に受け入れ先の窓口が大手旅行会社から、NGOに変わっただけで「丸投げ」体質は何ら変わっていないので、的外れ、市民生活とピントのずれた視察内容となっている。じつはいままでの海外視察は民主党と自民党の市会議員だけが参加していて、公明党や共産党の市会議員は参加していなかった。今回、両党の議員も参加しやすくなるように、脱原発を訴える公明党や共産党を意識して、このような脱原発目的の視察を企画したのではないだろうか。

とにかく今後、「再生可能エネルギー」という言葉を使えばヨーロッパの国々、ヨーロッパの各都市は、議員の好みで自由に視察先として選べることになるだろう。せっかくの「京都議定書」が海外視察の錦の御旗となってしまっている。

最後に今回の審査会は、海外視察の「調査目的」と「調査内容」を審査する場なので、高額な旅費については、ほとんど検討がなされていない。市民の批判をかわすため、シンガポールまではエコノミークラスに乗り、後半は疲れるのでビジネスクラスで行くようにしましたというような旅程の改変や、添乗員の費用をどうするかが多少、話し合われている程度である。普通の市民感覚なら、全区間、エコノミーで行き、ビジネスクラス希望者は自腹で、追加分を払えばいいだけのことである。また最近は円高が進み、海外のホテルは宿泊料金が下がっている。航空運賃もLCC(格安航空会社)が運航を開始してから、競争が激しくなり各航空会社とも航空券代が下がっている。

従って今回、計画している一人当たりの旅費97万円という予算限度額いっぱいの旅費は、更に値段切り詰めることが可能である。

今後、開かれる市議会では、市会議員の海外視察再開ありきの議論ではなく、市民からの理解が得られるような視察になるよう、そのあり方をもう一度見直すような議論を望みたい。