続・京都市市営住宅の空家整備に物申す!


連載第114回 『ねっとわーく京都』2014年4月号掲載

尾崎 彰俊(弁護士)
1 監査請求の結果

「ウォッチャーレポート」No.112「京都市市営住宅の空家整備に物申す!」でも報告がありましたが、京都市市営住宅供給公社(以下「公社」と言います。)は空家整備などの修繕管理業務について、一部の特定の業者とだけ修繕工事委託契約を締結するという不適切な業務執行を行っていました。本来であれば、このような不適切な業務執行を京都市が監督し是正すべきです。しかし、全く是正されていませんでした。

そこで、平成25年12月17日、「市民ウォッチャー・京都」は、監督責任を果たさず不適切な支出をした門川大作京都市長以下の管理者に対して、損害賠償請求をするなどの必要な措置をとることを求め、住民監査請求(以下「本件監査請求」)を行いました。しかし、本件監査請求は「対象とされている財務会計上の行為があった日から1年を経過した後に提出されていることについて、地方自治法242条第2項ただし書きに規定する正当な理由があるとは認められず、同項に適合していない」として1年の監査請求期間を過ぎているという形式的な理由で却下され、不適切な業務執行の有無については全く判断がなされませんでした。

2 「正当な理由」がない!?

後でも述べますが、違法な行為があっても1年を経過すると正当な理由がない限り住民監査請求ができないとされています。今回の住民監査請求で問題とした空家整備などの支出命令は平成23年5月16日以前に行われており、支出命令があった日から1年を経過した後に本件監査請求が行われているため、「正当な理由」がない限り住民監査請求はできないことになってしまいます。

本件監査請求について、「正当な理由がない」とされた根拠は次のようなものです。

①今回と同種の監査請求が平成24年8月6日、平成25年3月4日に行われ、その結果通知が前者の監査請求は平成24年12月21日、後者の監査請求は平成25年4月15日に市のホームページに掲載されたこと

②市が公社と京都市営住宅の管理代行協定を締結し、これに伴う経費の支出をしていることについては、市のホームページに掲示していること

③「ねっとわーく京都」平成25年5月号に「京都市は、市営住宅の管理運営を京都市住宅供給公社に丸投げしており、自らは一切チェックしていないことがわかりました。そして、京都市住宅供給公社は、一定期間のすべての修繕工事を行うことを街区ごとに特定の1事業者だけに認めている」との記事が掲載されていること

この3点を合わせて判断すれば、本件支出については、遅くとも平成25年4月15日頃には、住民が相当の注意力をもって調査をすれば客観的に見て、監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたと言えるとしています。

これは、同種の監査請求の情報がホームページに掲載されていたり、雑誌に不適切な業務執行についての記事が掲載されていたりするだけで、「正当な理由」がないとするもので、非常に不当な判断です。

3 住民監査請求の期間制限

住民監査請求について、地方自治法242条第2項は「当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときはこれをすることが出来ない。ただし、正当な理由があるときは、この限りではない」と定めています。つまり、違法な行為があっても1年を経過すると正当な理由がない限り住民監査請求ができないとされています。

しかし、この規定自体がそもそも不合理な規定です。本来、地方公共団体の財産は住民の信託に基づくものです。このような地方公共団体の財産が、自治体行政の財務会計上の過誤によっておびやかされている場合に、それを是正して自治体行政財政の適正な運営を確保し、住民全体の利益を擁護することを目的として住民監査請求制度があります。このような住民監査請求制度の制度趣旨からすれば、住民監査請求の期間を1年間に限ることは不合理です。

4 住民訴訟

「市民ウォッチャー・京都」では、本件監査請求の却下を受けて、市長には違法な支出を阻止すべき指揮監督義務違反があったとして住民訴訟を起こしました。本件監査請求では、形式的な判断のみで、実質的な判断は行われませんでした。今後、訴訟の中で、市長の指揮監督義務違反について明らかにしていきます。