「平成24年度 京都市海外行政調査報告書」を読む。


連載第116回 『ねっとわーく京都』2014年6月号掲載

豊田 陽(自営業)

これまで市議会議員の海外視察は、単なる「物見遊山」、「税金の無駄遣い」だと市民からさんざん批判され、ここ数年間休止していたが、昨年から再び行われることになった。京都市のホームページには、その報告書が掲載されているので、さっそく読んでみることにした。

ホームページに掲載されている海外視察の報告書や情報公開請求で取り寄せた文書を見るかぎり、これまで市民オンブズマンから批判された点や裁判官が苦言を呈した意見を取り入れて、海外視察に臨んでいるので、その点は素直に評価したい。

報告書(2012年=平成24年度)京都市会海外行政調査(再生可能エネルギー報告書P5)には「なにしろ同行議員、職員が「こんなハードで中身の濃い視察は初めてだと何度も呟いていたくらいである(寺田一博)」と書いてあったが、いかにこれまでの海外視察が薄っぺらなものだったが如実にわかる。

さて、どのような点が改善されたのだろうか。まず、事前に審議会を開き、専門家の意見を取り入れている、あるいは学習会を開いている。また旅行業者の選定にあたっても、過去は、なぜか大手旅行会社一社が「総合的に判断して」という理由で、ほぼ独占していたが、今回からは旅行会社選定の採点表をつくって、合理的かつ総合的に旅行会社を選定しようとしているなど、海外視察を再開するに当たって各方面から批判が出ないように注意を払っているように伺える。こういった点は今後も、形骸化することなく続けて欲しい。

また1回目の視察では、ドイツの脱原発、再生可能エネルギーの取り組みを紹介する現地のNGOのような団体にコーディネートを依頼していたが、これが中身の濃い視察に繋がったように思う。今後も海外視察の企画、プランニングに当たっては、旅行会社任せにするのではなく、民間の情報も活用し、今回のような現地のNGOやボランティア団体との連携が必要だと思う。

ちなみに、この視察では後半、スペインのバルセロナ市を訪問しているが、現地のNGOとの関わりのない、この部分は全然ダメだった(訪問先の選定などは従来通り、旅行会社任せにしていた)。何度、報告書を読んでも、なぜ、はるばるスペインまで行ったのかわからない。書籍やインターネットで十分、調べることができる内容だったので、報告書の後半部分には正直がっかりした。

とにかく、これまでの海外視察報告書は修学旅行生の作文のようであったが、今回からは「市政への提言」「市政への反映に向けて」という総括も一応、末尾に書き加えられるようになった。

国が原発再稼動を容認し、原発推進に舵を切ったいま、ドイツの脱原発、再生可能エネルギーへの取り組みを視察したことが、果たして京都市の行政に生かすことができるのかという疑問も残るが、税金をかけて行った以上、視察を有効に役立てて欲しい。
2回目の視察報告書も従来の報告書より中身が濃かった。これも事前や事後の学習会を開いた成果が出ていると思う(2012年=平成24年度)京都市会海外行政調査(ロードプライシングP4)。「なお、今回、調査を実施するにおいて、11月27日の第1回調査団の開催をはじめ、1月16日の中川大京都大学教授を招いての事前研修を含めての5回の会議を行い、調査実施に当たっての検討を行っている。また、帰国後においても5回の会議を行うなど、調査結果を政策提言として行う作業を進めてきたところである(隠塚巧)」

一方、やはり残念だなと思うことも多々ある。ひとつは旅費が相変わらず高額なことだ。旅費については、海外視察にいくらかかったかが、京都市のホームページには、はっきりと掲載されていない。一連の海外視察にかかった金額を知ると、たとえ報告書の内容がきちんとしたものであっても、やはり市民は視察容認派と批判派のふたつに分かれてしまうだろう。

余談になるが、国の会計検査院のホームページを見ると、会計検査の観点のひとつに「効率性」を揚げている。「検査対象機関の業務の実施に際し、同じ費用でより大きな成果が得られないか、あるいは費用との対比で最大限の成果を得ているかという観点です」(会計検査院のHPより)。京都市の海外視察でも、やはり「費用との対比で最大限の成果を得ているか」という点では、たとえ視察が条例に則ったものであっても、はなはだ疑問が残る。

とにかく、京都市の条例で旅費の上限が決められた当時に比べると、航空機の機体も改善され、エコノミークラスも快適になっている。あるいはLCCなどもひろく飛ぶようになっているので、エコノミークラスやLCCなどを利用すべきだと思う。

また報告書(2012年=平成24年度)京都市会海外行政調査(再生可能エネルギー報告書P4)で《外部委員からの「積極的に外国へ出向き、日本と異なる現地の考え方や文化に触れることは重要」とのご意見を大変印象深く聴かせていただきました》とあるが、事前の審議会の議事録を読むかぎり、この外部委員は、京都市の市議会議員が高給取りであり、政務調査費も毎月、たくさん貰っているのを知らないのではないかと思う。外部委員の「百聞は一見に如かず」的な意見を海外視察容認のお墨付きにするのはやめて欲しい。

最後に「情報公開」のあり方についても、少し批判しておきたい。市会事務局から公開された文書に目を通すと、機密保護法を先取りするかのように「ミラノ情報」や「シンガポール情報」が全面、真っ黒に塗りつぶされていた。見積書を提出した旅行会社のプライバシー保護のためらしいが、本当にそうだろうか?

従来に比べると今回、公開された文書を見ると、見積書等の墨塗り範囲がかなり増えている。過去の事例では、京都市をはじめ多くの自治体の海外視察の報告書で、旅行会社が事前に提出した資料を、そのまま丸写し、いわゆるコピー&ペーストした事例が多数見受けられ、市民や法廷で批判にさらされている。今回、このような墨塗りの形で資料を提出されてしまうと、果たして議員が報告書をきちんと書いたのか、あるいはコピペなのか検証のしようがない。せっかく、海外視察の報告書がまともなかたちになりつつあるだけに、市会事務局の配慮というか、判断は残念でならない。