連載第141回 『ねっとわーく京都』2016年10月号掲載
塩見 卓也(弁護士)
JR亀岡駅北側では現在、「京都スタジアム」の建設計画が進行中です。この計画については、事業地及びその周辺地が常襲浸水地であり、このような土地を開発することにより水害の危険が生じうることや、事業地が希少生物であるアユモドキの生息地であり、生息環境に悪影響を及ぼすことなどが問題視されています。これらの問題に関しては、事業をストップさせるために、土地区画整理組合設立認可取消請求訴訟や、都市計画公園事業認可取消請求訴訟が京都地裁に提起されています。
この「京都スタジアム」建設計画をめぐる訴訟は、これら2つだけではありません。スタジアム建設用地を買収する際に、亀岡市は「19.8haを業者に測量させた」との名目で、約1240万円を支出しています。しかし、この支出は、果たして亀岡市は測量の成果物をしっかり確認した上でなされたものなのか、非常に不透明なものでした。この支出をめぐり、酒井あきこ亀岡市会議員は住民監査請求を行い、さらに2015年2月に住民訴訟を提起しています(参照:スタジアム建設にみる不透明な亀岡市行政を許さない – 市民ウォッチャー・京都)。
このスタジアム用地の測量、何が不透明かといえば、「測量を行った」とされる用地のうち3分の2については、前年度に亀岡市が「京都スタジアム」へのアクセス道路設計のために行った測量の対象地と重複していました。さらに、前年度に京都府が行った大規模スタジアム整備にかかる調査測量とも多くが重複していました。そして、実際に成果品として作成された現況平面図をみると、アクセス道路設計のために行った前年度の測量成果を流用したとしか考えられない内容となっていました。
すなわち、この測量においては、「19.8haを測量した」ということ自体が非常に疑わしく、やっていない測量について亀岡市が業者に対価を支払った疑いが持たれました。実際、亀岡市の監査結果では、「復元測量のうち43点について履行の確認手段が行われていない」と述べられ、一部につき測量が行われていない疑いが指摘されていました。
また逆に、仮にその業者が実際に「19.8haを測量した」としても、そのうち3分の2は「やる必要のなかった測量」であったということもできます。いずれにしても、この測量に対し約1240万円もの公金が支出されることに、正当性があるとは思えません。
住民訴訟では、亀岡市は当初、測量の成果品について、前年度のアクセス道路設計における測量結果を流用し合成したものであることは認めたものの、測量自体は用地19.8ha全体について行われたと主張していました。それに対し、住民側は、民間業者に発注を行った場合に作成されるはずの業務打合せ簿が、本件の測量に関しては作成されていなかったこと、そんな中でアクセス道路設計業務の測量結果との合成が行われていることなどの事実経緯の怪しさから、そもそもアクセス道路設計業務での測量結果が流用されている部分については測量が行われていないと考えざるを得ないと主張しました。そして、亀岡市に対し、「全体について測量した」というのなら、アクセス道路設計業務の測量結果を合成する前の成果物を証拠提出するよう求めました。
それに対し、2016年6月20日、亀岡市は、「従前は業者の担当者からの説明に基づき、測量は全部実施されていると主張してきたが、改めて事実関係を確認したところ、業者から調査測量対象地の一部については測量を行っていないとの説明がなされた」と、一部につき測量が行われていないことを認めてきました。当初からの疑いのとおり、亀岡市は、やっていない測量業務に対してまで対価を支払っていたことを認めたのです。これは、明らかに違法支出といえるでしょう。
亀岡市は、この住民訴訟中に初めて測量の一部が行われていないことを知ったと主張しています。しかし、民間業者との契約による成果物が納品される際には、当然に亀岡市から検査が行われることになっています。一体、この測量結果に対し、亀岡市はどんな検査をしていたというのでしょうか。あまりに杜撰すぎます。
この住民訴訟には、測量を行った業者も参加することになり、現在その業者からの説明を待っている段階です。ただ、どんな説明があろうと、やっていない仕事に対する支出は違法といわざるを得ないでしょう。「京都スタジアム」計画は、あまりにも問題が多く、仕切り直しにすべきなのではないでしょうか。