連載第135回 『ねっとわーく京都』2016年3月号掲載
井関 佳法(弁護士)
「年金積立金をギャンブル投資の安倍政権 3か月で10兆円消える」
昨年(2015年)11月、標記のショッキングな報道がありました。余り知られていないことですが、年金には莫大な基金があって、これをGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)というところが運用しています。これまでの堅実運用路線を転換して、ハイリスクハイリターンの運用を行うようになりました。具体的には、国内債券中心から国内外の株式中心にシフトしたのです。そしてほどなく、上記結果となったわけです。
どうして、危ない橋を渡るのか?大量の資金で大量の株式を買えば、需供のバランスから株価が上がります。株価が上がれば、アベノミクスがうまくいっている証拠だと宣伝できます。そうして選挙に勝とうと思っている。安倍政権が軽視するのは立憲主義だけではないようです。
年金額<最低賃金<生活保護
日本には、おかしなことがいくつもあります。これもその一つだと思います。年金額と最低賃金、生活保護費は、年金額(老齢基礎年金)<最低賃金<生活保護の順番になっています。政府は、生活保護費基準を引下げて、最低賃金を上回ったと宣伝していますが、生活保護を最低限度の生活を保障するにふさわしい額に引き上げ、生活保護費<年金額<最低賃金となるように、年金、最低賃金を引上げるべきでしょう。
あきらめ感、拡がる
若い人に年金のことを聞いてみてください。「今は65歳からですか、僕らはいくつになったらもらえるんでしょう。」「僕らがもらう頃には、一体、いくら年金が出るんでしょう。」「そもそも、年金なんてなくなっているんじゃないですか。」
少なくない方が、悲観的にあきらめを口にするのではないでしょうか。株式会社マクロミルが2015年に新成人500人を対象に行なった世論調査では、国民年金は信頼できると答えた人が26.8%、信頼できないと答えた人が73.2%でした。
年金の現状
現在の年金受給額ですが、国民年金の場合は、満額で6万5000円、平均で5万円程度。厚生年金の場合は、40年間厚生年金に加入した夫と専業主婦の妻が受け取る夫婦の基礎年金と夫の厚生年金(報酬比例年金)が21万5000円(モデル年金額)、現役男子の平均手取り収入に対するモデル年金額の割合(所得代替率)が64.1%だとされています。
年金財政は、支出は年金給付が54.2兆円、収入は保険料収入が35.1兆円、国庫負担が12.2兆円です(平成27年度予算ベース)。
これから、高齢化が一層進むこととなります。
年金の仕組み
年金の方式には、積立方式と賦課方式があります。積立方式とは、将来自分が受給するときに必要となる財源を、現役時代の間に積み立てておく方式です。賦課方式とは、年金支給のために必要な財源を、その時々の保険料収入から用意する方式です。我が国は、賦課方式を採用していると言われています。積立方式は、インフレによる価値の下落に弱く、賦課方式は、高齢化に弱いと言われています。
政府は、我が国の年金制度は賦課方式をとっているので高齢化に弱く年金削減は避けられない、年金削減を毎回国会で審議して決めるのは煩わしいので毎年自動的に年金額を適正額まで削減する仕組み(マクロ経済スライド)を設けたと説明しています。今の計画では、報酬比例部分は2020年までに6パーセント削減、基礎年金部分は2043年までに3割減する、とされています。基礎年金3割減は、現在平均5万円ですから、3万5000円に削減するとされているのです。1か月3万5000円はいくら何でも乱暴でしょう。しかし、手をこまねいて見ていれば、月額3万5000円の年金に向かって、自動的に年々年金削減が進んでいくのです。
もう一つの道
では、どうすればよいのでしょうか?
(1)基金の活用
年金基金が150兆円ほどあります。これを活用しなければなりません。この150兆円は、今のそしてこれからの高齢者が、営々と積み立ててきたお金です。それを、高齢化が進んで一番苦しい今使わない手はありません。
政府も口先では活用を言いますが、立てている計画とこの間の年金活用の実績を見る限り、年金給付に回すつもりがあるのか疑問です。これからも株式投資に使いたいと思っているのでしょうか。
賦課方式を強調して、年金基金の活用を怠ることは許されません。
(2)年金保険料を増やすこと
保険料収入を増やすためにはどうしたらいいでしょうか。この間、正規労働者が非正規労働者に置き換えられ、賃金が切り下げられてきました。その結果、年金保険料収入が減少すると、それを理由に年金給付を切り下げるのです。
年金問題の根本解決として、労働者の賃上げが必要です。建前論で非現実的と受け止められるでしょうか。しかし、政府・財界は、賃下げと年金削減をセットで進めています。我々が遠慮したり、反目し合ったりでは対抗できません。年金受給者も、現役労働者の賃上げ、格差是正の取り組みに加わらなければなりません。反対に、現役労働者も、若者も、年金改悪を阻止する取り組みに加わらなければなりません。
年金訴訟が始まりました
年金者組合が、全国でも京都でも年金訴訟に立ち上がりました。現役労働者や若い方に、裁判を広く知ってもらい、なじみが薄い年金制度や実態、そして年金の将来像を語り合いたいと思います。