「民泊」急増中、規制緩和して大丈夫なの?


連載第149回 『ねっとわーく京都』2017年6月号掲載

岡根 竜介(弁護士)

1 「民泊」

最近、路地を歩いていると板塀や柱に、「無許可民泊建設反対!」「民泊禁止」等の張り紙をみることが多くありませんか。いま、京都でも身近な問題として「民泊」問題が取り上げられるようになってきました。

ここでいう民泊とは、宿泊用に提供された個人宅の一部や空家、別荘、マンションの空室に宿泊することを指しています。

ところで、有料で宿泊施設を提供するには「旅館業法」という法律に従う必要があります。ですので、お金をとって宿泊客を泊めようと思えば、市長等の許可を得ないといけません。ところが、2016年3月時点において京都市が調査をしたところによると、市内に2700くらい施設があるうちのおおよそ7%しか許可を受けていませんでした。

民泊施設は、現在も増え続けていて、昨年末での大手宿泊予約サイトの登録数は、4500にもなるようです。3月時点での割合からみて、この内の相当数が無許可ではないかと疑われます。

2 何が問題?

民家の一部を貸すだけなんだから特に問題はないんではないかと思う方もいるかもしれません。しかし、有料施設で他人を泊めるのですから、少なくとも衛生面、防災面、防犯面等で一般の住宅よりも厳しい安全基準を満たす必要があります。

宿泊される人は、大半が観光客でしょう。観光はやはり特別な環境であり非日常です。しかし、周りの民家では日常生活が繰り広げられています。日常の生活の場で、とりわけ夜間、連日道行く人の大きな話し声やキャリーバックの音が響いてきたり、見知らぬ人が入れ替わり立ち替わり出入りを繰り返しているとすれば、隣に住むあなたは平穏でいられるでしょうか。

何か問題があっても、とりわけ無許可の施設であれば、オーナーが誰だかわからず連絡のとりようがないこともあります。「迷惑行為」の防止は、施設営業者の義務とされているのですが、連絡も取れなければ、誰に何を求めたらいいのかもわかりません。

許可を得ている施設でも、「簡易宿所」では、従業員が常時配置されていない施設も多くみられます。それどころか従業員がいないのではないかと思われるケースもあります。もちろん、それは違法なのですが、現在の京都市には残念ながらそのような問題に十分対応できるだけの体制が備えられてはいません。

とは言え、京都市には、宿泊施設を指導する責務があります。場合によっては、立ち入り検査もできますし、営業者に対して必要な措置を命じることもできます(旅館業法7条、7条の2)。

営業者に改善を申入れても、改善できなければ京都市の担当課に申入をすることができます。京都市の指導要綱には、営業者に連絡先を周知することや施設の名称などをわかりやすく明示すること、迷惑行為を防止することやその中止の措置をとること等を求めています。観光都市京都を打出すのであれば、京都市には、それに見合った旅行者にも居住者にも安全で安心できる宿泊施設を整える必要があるはずです。

3 「民泊」かな?と思ったら

最近近所の人の出入りが変わった、入居者募集の張り紙がなくなった、というような変化がある場合、ひょっとしたら無許可での民泊が営まれているかもしれません。あれ?っと思った場合、インターネットで旅館業の許可を得ている施設の一覧をチェックしたり、各行政区の保健センターに問合せをすると許可の有無が把握できます。

無許可で宿泊施設の営業が行われていれば、間違いなく違法ですから、京都市としては何らかの改善策をとる必要があります。ただ、前述のように京都市の体制は不十分ですので即座の対応はできないことも多いようですが、それでも違法民泊の営業を中止させたり、仲介サイトに無許可物件の民泊の情報の削除を求めたりといったことは行ってきています。むしろ市民の情報がこの問題に対して京都市を動かしているのでしょう。

しかし、宿泊施設ができてしまった後になっては、問題解決ができないこともあります。とりわけ、周囲への説明もなく、十分な法律上の要件も満たしていないような計画である場合、その後の営業が適切に行われるとは到底思われません。京都市の指導要綱では、民泊施設の計画は公開することを求めていますし、「自治会、町内会その他の地域住民の組織する団体」に対して説明会を開催すること等を求めています。

そのような中で、地域の結束が固いところでは、計画を変更させたり、場合によっては断念させている先例もあります。

ところが、政府はこの問題でも規制緩和を打ち出してきています。いまでも、様々な問題に対応できていない場合が多いにもかかわらず、安易に緩和などすれば、無法の野放しにもなりかねません。地域住民の平穏な暮らしと調和できるようなルール作りこそ求められているはずなのです。