大飯原発運転差し止め判決(2014年3月福井地裁)を読んで


連載第151回 『ねっとわーく京都』2017年9月号掲載

鈴村 堯

この判決が出たとき、大変感動しました。

ぜひ判決全文を読んでみたいと思って、挑戦しました。68ページにわたる長い判決文でしたが、なんとか読みました。そもそも原子力発電とは何か、核分裂とは何かの説明から始まって、大きな争点ごとに、原告被告の主張が述べられ、当事者の主張に沿って裁判所の判断が示され、判決主文が言い渡されました。

次の文章は、「当裁判所の判断」の冒頭部分です。

「ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは、当然の社会的要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である」

この短い文章の中に、本件裁判に対する裁判所の基本的な考え方が率直に述べられていると思います。

そして、人格権の根幹部分をなす根源的な権利と、原子力発電所の運転の利益については、「原子力発電所の稼働は法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由に属するものであって、憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである」と、憲法上、同等には扱えない旨が示されています。

続いて、「大きな自然災害や戦争以外で、この根源的な権利が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力発電所の事故のほかは想定しがたい。かような危険を抽象的にでもはらむ経済活動は、その存在自体が憲法上容認できないというのが極論にすぎるとしても、少なくともかような事態を招く具体的危険性が万が一でもあれば、その差止めが認められるのは当然である」と原子力発電という経済活動についての裁判所の厳しい判断が示されます。

ここで福島原発事故について次のように述べています。

「原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは、福島原発事故を通じて十分に明らかになったといえる。本件訴訟においては、本件原発においてかような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされるべきであり、福島原発事故の後において、この判断を避けることは裁判所に課せられたもっとも重要な責務を放棄するに等しいものと考えられる」

福島原発事故のもたらした悲惨な状況が、はっきりと裁判所によってとらえられていることが、ひしひしと伝わってきます。

また、原子力発電所の特性について、「原子力発電においてはそこで発出されるエネルギーは極めて膨大であるため、運転停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず、その間に何時間か電源が失われるだけで事故につながり、いったん発生した事故は時の経過に従って拡大してゆくという性質を持つ。このことは、他の技術の多くが運転の停止という単純な操作によってその被害の拡大の要因の多くが除去されるのとは異なる原子力発電に内在する本質的な危険である」と原子力発電所の事故とその他の技術による事故の終息方法の違いについて述べています。

そして、「施設の損傷に結びつきうる地震が起きた場合、速やかに運転を停止し、運転停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷却し続け、万が一に異常が発生したときも放射性物質が発電所敷地外部に漏れ出すことのないようにしなければならず、この止める、冷やす、閉じ込めるという要請はこの3つがそろって初めて原子力発電所の安全が保たれることになる」と原子力発電所という特別な施設に課せられた重要な機能について述べています。

使用済みの核燃料の危険性についても述べています。

「原子力発電所は、いったん内部で事故があったとしても放射性物質が原子力発電所敷地外部に出ることのないようにする必要があることから、その構造は堅固なものでなければならない。そのために、本件原発においても核燃料部分は堅固な構造をもつ原子炉格納容器の中に存する。他方、使用済み核燃料は本件原発においては原子炉原子炉格納容器の外の建屋内の使用済み核燃料プールと呼ばれる水槽内に置かれており、その本数は1000本を超えるが、使用済み核燃料プールから放射性物質が漏れたときこれが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する原子炉格納容器のような堅固な設備は存在しない。

使用済み核燃料は、原子炉から取り出された後の核燃料であるが、なお崩壊熱を発し続けているので、水と電気で冷却を継続しなければならないところ、その危険性は極めて高い」

万が一の事故に備え、使用済み核燃料についても、原子炉格納容器のような堅固な設備が必要であることが強調されています。

そして最後に、本件原発の差止めの必要性について次のようにいっています。

「本件原子炉及び本件使用済み核燃料プール内の使用済み核燃料の危険性は運手差し止めによって直ちに消失するものではない。しかし、本件原子炉内の核燃料はその運転開始によって膨大なエネルギーを発生することになる一方、運転停止後においては時の経過に従って確実にエネルギーを失っていくのであって、時間単位の電源喪失で重大な事故に至るようなことはなくなり、破滅的な被害をもたらす可能性がある使用済み核燃料も時の経過に従って崩壊熱を失っていき、また運転停止によってその増加を防ぐことができる。そうすると、本件原子炉の運転差止めは上記具体的危険性を軽減する適切で有効な手段であると認められる」

私たちの生存と共存することのできない原発は、直ちに停止し、廃炉にするしかないとつくづく思いました。