井手町谷田操議員、君が代起立斉唱強要に人権救済申立


連載第155回 『ねっとわーく京都』2018年1月号掲載

井関 佳法(弁護士)

君が代斉唱起立強要に対して人権救済申立

井手町の谷田操議員が、2017年11月13日、京都弁護士会に人権救済を申し立てました。

井手町の卒業式や入学式に来賓として出席した谷田議員が、国歌斉唱時に起立しなかったところ、校長が来春の卒業式・入学式で起立するよう求め、「起立しないなら来賓として招待しない」と言いました。谷田議員は、思想良心の自由(憲法19条)、平等権(14条)、表現の自由(21条)に違反して憲法違反だと主張しています。

大手を振る、日の丸・君が代

国旗国歌法は、2007年に成立させられましたが、制定時に政府は「起立する自由もあれば、斉唱しない自由もある」(野中内閣官房長官)と答弁していました。

ところが、2009年、学習指導要領に「(儀式的行事は)厳粛で清新な」ものとすること、「入学式や卒業式では…国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導する」ことが定められました。

以来、卒業式や入学式に日の丸掲揚、君が代起立斉唱の実施が徹底されていきました。そして当局のなかには、不起立の教職員に処分で臨むところもでており、裁判所もこれを追認し歯止めの役割を果たせていない状況です。

経過

谷田議員は、日本共産党公認で1994年以来連続6期目、町会議員8名中、唯一の共産党議員で、唯一の野党議員です。

井手町には小学校は2校、中学校は1校あり、いずれの学校も入学式・卒業式に全町会議員に来賓の招待状を送ってきており、谷田議員は、多賀小学校(地元)と泉ヶ丘中学校の入学式・卒業式には一度も欠かさず来賓出席してきました。

井手町での日の丸掲揚、君が代起立斉唱は、2013年4月の入学式で初めて実施され、今日に至っています。谷田議員は、当初から「過去の戦争に国民をかりだすための使われた経緯や、今日でもヘイトスピーチに利用されていることから、日の丸・君が代を国民に押し付けることに反対」だとの理由から不起立を続けてきました。

教育庁の議会答弁・校長からの起立要請

ところが松井定井手町教育長は、2017年9月議会で不起立議員がいて残念だがどう思うかとの質問に、「残念」だ、「児童・生徒への影響を憂慮する」、「質問のあったことを学校長に伝える」と答弁しました。

そして2017年10月24日、中田邦和泉ヶ丘中学校長、山野勉多賀小学校長は、谷田議員に対して「次の卒業式、入学式では国歌斉唱の際、ご起立願います」、「立つのかどうか返事をするよう」、「立たないというなら来賓として招待しない」と迫ったのでした。

アメリカでも広がる国歌斉唱への異議申立

ところで今、アメリカでも国歌斉唱への異議がホットな問題となっています。

2016年夏以来警察官の黒人射殺事件等が続き、これに抗議するアメリカンフットボールの選手が国歌演奏時の起立を拒否して片膝をつきました。これが他の選手に広がると、トランプ大統領が「NFLのオーナーに、国旗に敬意を表さない選手を『今すぐ場外につまみ出せ』と言いたくないか」と語り、これに抗議する行動が更に広がることになりました。

チームオーナーも選手達を擁護して「国歌、国旗に敬意を表し、セレモニーに全員参加することが重要だ。しかし同時に、個人の表現の自由も尊重しなければならない」とか、「選手には表現の自由があるし、それは憲法で保障されている」と表明しており、さらに俳優やミュージシャンにも抗議行動が広っています。

政治への抗議の意思を、国歌斉唱時に不起立で表明するもので、表現の自由の問題ととらえられています。

頑張れ、谷田議員!

国旗国歌法は国民への義務を何ら定めていません。学習指導要領が斉唱指導を記載しているだけで、斉唱指導を導き出す直接の法的根拠はありません。

学習指導要領は、これを式典の「厳粛さ」に求めているわけですが、その「厳粛さ」は教育行政で最優先されるべき教育を受ける権利との関係で、どのように位置づけられるのか納得のできる説明はありません。それにそもそも、上記学習指導要領の対象は児童生徒と教職員で、保護者や来賓を対象にはしていません。

また当局は、行為を制限しても内心の自由を制限する事にならないなどと言いますが、起立斉唱という行為は対象に対する畏敬の念を表する行為であり、両者を別物とできないはずです。

弁護士会には、2018年の卒業式、入学式に間に合うよう迅速な調査と、これら問題に踏み込んだ判断を期待したいと思います。

そして、勇気ある谷田議員への応援、支援を広げたいと思います。