京都府警の懲戒処分等の特徴と問題点
2009年12月16日
【請求のねらい】
警察は、公共機関の中で最も透明性に欠け、また、住民に対する説明責任を果たさなければならないという自覚が著しく低いところだといわれる。「捜査報償費」などを名目とした巨額の裏金作りなどの不正行為は、こういった体質を背景に維持・再生産されていると思われる。
2009年8月、岡山で開催された全国市民オンブズマン大会の「警察の情報公開」分科会では、警察内部の不正を隠蔽するシステムの一つとして、「恣意的な人事と警察OB会による面倒見」が指摘された。
すなわち、「組織に逆らう者には恣意的な人事や罠のような懲戒処分で追いつめ、屈服させる。抵抗すれば屈辱的な扱いもする。…警察組織の特異なところは、懲戒処分にした後の面倒見だ。企業でも役所でも懲戒解雇・懲戒免職にした者に対して、生活に困らないように次の職場を用意してやるなど、到底考えられないことだ。しかし、警察官の場合は、懲戒免職のときこそ、次の就職先を警察OB会が面倒を見てやる。面倒見をすることで、懲戒免職警察官の組織に対する積年の不満が爆発することを封じ、沈黙させる」(同大会資料集より)のである。
今回の京都府警の懲戒処分に関する情報公開請求のねらいは、不正隠蔽を可能にしているという「恣意的な人事」の実態について、明らかにすることである。
【請求した公文書】
*京都府警の情報公開の対象は条例施行日以降に作成された公文書に限定されている。
【処分の特徴】
1 懲戒処分と監督上の措置について
地方公務員法にもとづく懲戒処分の他に、内規に基づく「監督上の措置」がある。これは京都市でいう「譴責処分」に当たるもので、訓告、本部長注意、厳重注意、所属長注意がある。懲戒処分が昇任、異動に影響を及ぼすのに対し、監督上の措置は必ずしも影響することはないと言われる。
「内規に基づく監督上の措置」といいながら、その明文化された「内規」は存在しない。また、公文書もごく簡単な各処分の一覧表を作成しているのみで、個々の具体的な内容はいっさいわからない仕組みになっている。
2 特徴
開示された公文書の情報量はごく少なく、個々の事例について、断定的なことは言えないが、おおむね以下の特徴がある。(処分一覧表参照)
(1)現在の京都市と比べると処分は格段に甘い、かつ不可解なケースが散見される。
たとえば、夜の路上で強制わいせつ致傷に及んだ巡査長は停職1か月の処分(下鴨署・02年)、上司の権限を利用し部下の職員をホテルに呼び出し15分にわたっていやがる相手にセクハラ行為を行った警部は戒告(本部・07年)ですんでいる。
警官7人が同乗し飲酒運転してもやはり所属長訓戒・注意程度なのだ(本部他・02年)。またプールなどで女性を盗撮しても懲戒処分をうけず本部長訓戒(本部・02年)、懲戒処分を受けても一番軽い戒告ですんでいる(宮津署・04年)。
本屋で万引きしても減給6月である(下鴨署・06年)。最も驚かされるのは、警察署内で窃盗をはたらいても免職になることはないのだ(本部・05年、宇治署・09年)。
公開された「懲戒処分の指針」によると、「セクハラ」は減給または戒告、「暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をすること」は免職または停職、「のぞきをし、または下着等を盗撮すること」は停職または減給、「住居等に侵入して他人の金品等を窃取すること」は免職、「万引きをすること」は停職または免職と規定されている。
(2)その一方、「不適切な異性交際」(不倫のこと)にだけはなぜか厳しくのぞんでいる。
懲戒処分者のうち、不倫を理由とするケースが最も多い。監督上の措置でもスピード違反に次ぐ多さをほこっている。
容疑者や事件関係者と関係を持つなど、中には処分されてもやむを得ないケースもあるが、大半が純然たる私生活上の出来事だと推測される。公文書開示の際の監察官室職員の説明によると「業務に支障を来すとか職場の風紀を乱すといったことがなくても、処分の対象となる。警察職員にはそれだけ高い倫理性が求められる」ということだった。
(3)事実上、過重な処分が行われている可能性がある。
職務質問していた警部補の拳が偶発的に相手に当たったケースでは本部長訓戒に処している。警部補は依願退職している(太秦署・04年)。その他、比較的軽微な不祥事と思われる事例でも、処分を受けるとともに依願退職しているケースが散見される。事実上の「免職」であり、過重な処分が行われていることが推測される。
【不可解な処分例】
■「懲戒指針」に照らし軽いと推測される事例(公文書より引用)
1 下鴨署巡査長:平成14年4月25日午後9時36分頃、京都市山科区路上を歩行中、一人歩きの女性を認めるや同女に対しわいせつ行為を企て「胸を触らせてくれ。」と申し向け両手で同女の胸を触ろうとしたが、その気配に気がついた同女が振り向いたため逃走しようとしたところ、同女に後方から抱きつかれ、これを振りほどくため同女の右手第二指基節部をを噛む暴行を加え、1週間の加療を要する傷害を負わせた。→停職1か月(2002年5月17日)依願退職
2 本部他巡査5人:5名は。平成13年7月4日、上司である警部補とともに福井県下に釣りとバーベキューに行き飲酒したのち、警部補が運転の車両に同乗し帰宅したものである。さらに、●●巡査は同年9月26日、●●警部補やその知人とともに飲酒運転容疑の車に同乗したものである。→所属長訓戒、所属長注意(2002年8月23日)
3 宮津署事務吏員:女性の脚部を小型カメラで隠し撮りした。→戒告(2002年11月4日)依願退職
4 本部警部補:プールサイドにおいて女性を無断で写真撮影し、女性の同行者に咎められるもなんら釈明せず立ち去った。→本部長訓戒(2002年11月14日)
5 本部巡査部長:当直業務の執務室において勤務中、同室内に保管されている料金箱から現金を窃取した。→停職6か月(2003年9月1日)依願退職
6 下鴨署巡査部長:書店において商品代金(5533円)を支払わず店外に出たところ、警備員に発見された。→減給1/10(6か月)(2006年8月3日)依願退職
7 本部警部:関係女性職員の直属の上司であり、同職員の自動車運転技能検定普通A取得に向けて指導中のところ、その立場を利用して、技能検定訓練に使用した車を返す等、言葉巧みに誘い出し、平成20年8月14日午後9時頃から約15分間、京都府舞鶴市真倉所在のホテルにおいて、嫌がる同職員に対し抱きつく等のセクシャル・ハラスメントをした。→戒告(2008年11月13日)
8 宇治署巡査部長:職場の更衣室において、同室内に置かれた鞄等から現金(4回にわたって合計約8万円)を窃取した。→停職3か月(2009年7月9日)
■処分過重が疑われる事例(公文書より引用)
1 宇治署巡査長:飲酒して帰宅途中、駐車中の軽四輪自動車を1回足蹴りした。→本部長訓戒(2002年9月2日)依願退職
2 太秦署警部補:職務質問中、説諭のため右手拳を前に突き出した際、相手がこれをかわそうとして左手にあたるという不適切な職務執行を行った。→本部長訓戒(2002年12月24日)依願退職
3 亀岡署警部補:勤務中、男性の態度に立腹し、同人を殴打した。→本部長訓戒(2003年8月31日)依願退職
■今回の情報公開請求後に発表された事例について
2009年9月、パトカーなど捜査車両を使って、知人ら8人をプロゴルフ大会会場まで送迎した城陽署交通課長(当時)が、減給1/10(3か月)処分を受けた。「処分説明書」には処分理由を「ゴルフ大会に向かっていた知人から、『急きょ、駐車場等の確保ができなくなった。一般の駐車場を教えてもらったが地理不案内である。』旨の電話連絡を受け」、自分が運転するパトカーに4人を、部下にも公用車を運転させ残りの4人をゴルフ大会会場まで送り届けた。帰りも、「『帰りの足が確保できなくなった。』旨の電話連絡を受け、交通パトカーを運転してゴルフ場に赴き、警察署まで2回往復して8名全員を搬送した」と記されている。
しかし、ゴルフ大会を開催した大会事務局に確認したところ、大会期間中、駐車場はかなり余裕を持って確保しており、駐車できなくなった事例はない。また、駐車場の場所も各所に案内板を掲示して、ギャラリーから「場所がわからなくて困った」といった苦情は事務局には届いていないとも言う。さらに大会会場から最寄り駅までの送迎バスも運行していた。
つまり、府警の処分の理由には不自然な点が多く、公正な処分が行われているとは言い難い。不自然な点、疑問点を確認するため、府警本部監察官室に問い合わせたが、同室担当の次席は「処分についてはマスコミを通して説明している。それ以外個別に説明するつもりはない」と応対を拒否した。
【情報公開に対する府警の姿勢の問題点】
1 制度的な問題点
情報公開条例施行日(2001年9月23日)以前に作成された公文書は、そもそも対象とされていない。
2 説明責任の放棄
3 情報隠し
懲戒処分に際して、所管する監察官室では、所属長からの上申書を受け取り、当事者に対する事情聴取などを行っているが、それらの記録を残していない。上申書はすぐに破棄し、事情聴取の記録は職員の「個人的なメモ」とされ、情報公開の対象から除外している。よって、個々の処分のよりくわしい情報が残されていない。
また、監督上の措置に至っては、書類をいっさい残していない。
【今後の取り組み】
1 不可解・不自然な処分の実態の一端が明らかになった。また、府警の透明性に欠け、住民に対する説明責任への自覚に乏しい体質も明らかになった。こういった遅れた体質こそが、組織内の不正を隠蔽していると考えられる。
2 今後も、情報公開請求を続け、揺さぶりをかける。当面、懲戒処分に関する書類(所属長からの上申書、事情聴取メモをはじめとする監察官による調査記録、懲戒委員会の記録など)の開示を求め、裁判に持ち込み、府警の不透明体質をさらに浮き彫りにする。
(文責 寺園敦史)