同和奨学金滞納状況全国調査の概要の報告

2010年1月8日
市民ウォッチャー・京都
(作成:寺園敦史)

■はじめに
 市民ウォッチャー・京都はこれまで、同和奨学金の返済を京都市・府が借受者の資力、意思に関わりなく返済を一律に肩代わりしてきたことなどは違法だとして、住民訴訟を行ってきた。その過程でわれわれのもとには、他府県においても類似の制度を持つところがあるとか、いや行政はろくろく請求行為をしていないなどといった情報が届いている。そこで、当会として、京都市・府と他府県の実情の比較、各地の返還状況に見られる共通した問題点を明らかにするため、国の同和奨学金(地域改善対策奨学金)事業を実施したすべての自治体を対象に返還・滞納状況に関する調査を実施した。今後、各分野の専門家などの協力を得て結果の詳細な分析を行っていきたいと考えているが、以下取り急ぎ概要のみ報告する。

■初めて明らかとなる全国的な状況
 同和奨学金は国の同和対策の中でも中心的な事業の一つで、1969年の同和対策事業特別措置法施行以前の1966年度より実施されてきた。国庫補助金3分の2が支出されるが、事業の実施主体は府県(政令市)である。同和奨学金は当初返還の必要のない給付制だったが、1982年度より貸与制に切り替わった。借受者は卒業後20年分割で返還しなければならず、府県(政令市)は返還金の3分の2を国に返納する義務がある。ただし、借受者の世帯の全収入が生活保護世帯基準の1・5倍以内の場合、返還を5年間免除される(免除申請は何度でも可)。国の同和奨学金事業の新規受け付けは地対財特法が失効する2002年3月末で終了している。

 文科省児童生徒課就学支援係によると、同和奨学金事業を実施した自治体は全部で41(34府県、7政令市)である。当会は、2009年10月、全41自治体に対し、貸与額、貸与数、年度別返還額・滞納額、返還免除額、独自免除制度の有無とその金額などを問う質問表を送付し、のち必要に応じて電話による補足的な聞き取り調査を行った。2009年12月15日現在、回答があったのは、福井県をのぞく40自治体だった。うち福岡県のみ貸与総額、貸与総数以外は「非公開」との返答、徳島県には滞納率を明示することを了解してもらえなかった。結果は別表の通りである。

 われわれが知る限り、全国的な状況を示すデータが明らかになったのは初めてのことであり、おそらく国庫補助金を支出した文科省ですらも把握していないデータだと思われる。なお、質問表に明記していなかったため、貸与数については、「延べ人数」もしくは「実人数」で回答した自治体が混在している。そのため全自治体の総数の算出、自治体相互の単純な比較はできない。また、滞納率も、自治体によって算出方法が異なっていたため、各回答データをもとに、「滞納額 ÷(返還額+滞納額)=滞納率」として算出したことを、あらかじめおことわりしておく。

 貸与額の最も多いのは福岡県の215億3062万円(貸与数1万人以上)、次いで三重県の107億3010万円(同6332人)で、最小は茨城県の8649万円(同79人)である。滞納額(福岡県のぞく)は多い順に、奈良県10億156万円、兵庫県8億5297万円、和歌山県6億7189万円と近畿の自治体が上位を占める。貸与数が多いためこれはある程度必然的な順位といえる。滞納率(徳島県、福岡県のぞく)を見ると、高知県44・4%*、長野県40・8%、宮崎県37・9%の順、逆に、愛知県、京都府、佐賀県、長崎県、京都市は滞納率はゼロである。

    *高知県の滞納率を49・2%と表記していましたが、44・4%の間違いでした。訂正いたします(本文訂正済み)。

 ただし滞納率の低さが、その自治体の回収状況の「優良度」を示すとは限らない。貸与数が多いとどうしても回収が滞りがちになることはやむを得ないし、それ以前に、自治体独自に大規模な返還免除制度を導入すれば、当然滞納率は低くなる。

 全体の3分の1以上にあたる14自治体が、国の免除基準とは別に独自に免除(もしくは行政による肩代わり)制度を実施している(別記参照)。その多くは、世帯の全収入が生活保護世帯基準の2倍以内など具体的な数値を示したものである。

■独自免除制度の問題点
 一方、愛知県、三重県、京都府、京都市では、一律に免除(肩代わり)し、大阪府、大阪市では、経済状況とは直接関係しない要件で免除している。

 奨学金により、教育の機会均等が保障され、学業修了後、就職し経済的自立を果たせば、当然借りた奨学金は返済すべきだし、また、奨学金を返済できる資力を得たこと自体、慶ぶべきことであるといえるが、これらの自治体の免除(肩代わり)制度は、公金支出の公正性、効率性はもとより、借受者の自立という点でもその効果は疑問である。さらに、今日においてなお、旧同和地区住民を特別扱いする施策が、市民の部落問題認識にも肯定的な影響を与えるとは思えない。

 なお、大阪市の場合、2005年度以前において書類上滞納は生じていない。通常、「調定」とよばれる内部的意思決定(請求金額や返還期限を定める)を経て、借受者への請求行為が行われるが、同市の場合、20年後の返還最終期間が未到来との考え方から、実際に返還があった者についてのみ事後調定していた事実が、市の2006年度随時監査で明らかとなった。

■文科省に問題はないか
 滞納率の高いいくつかの自治体にその理由を問い合わせてみると、回収活動に困難が生じる自治体固有の事情(たとえば、運動団体の意向で厳格な取り立てが難しいなど)があるわけでも、回収活動の手続き上の不備があるわけではないと一様に返答している。本来なら免除になる借受者もその申請をしないために「滞納」扱いになっているケースも一定数あるというのが、唯一の理由らしい理由だった。

 さて、今回の調査で自治体の担当者から、担当者といえども他府県がどのような返還状況にあるのか、あるいはどんな独自の免除制度を持っているのかなど、ほとんど知る機会がないとの声を何度か聞いた。また、滞納率が高い自治体の担当者の多くは明確にそのことを認識していないようだった。

 これは今後の分析で明らかにしたい課題であるが、同和奨学金の返還・滞納については、文科省の姿勢に疑問を抱かざるを得ない。文科省は基本的に各自治体の回収状況及び滞納状況を把握していない。国庫への返済が少ない自治体に対して、とくだん督促、指導することもないという。滞納総額は61億6600万円あまり(しかも総貸与額1位の福岡県分をのぞいた額)。うち3分の2が自治体の国に対する滞納ということになるが、これだけの公金が失われている現実に対し、危機感に欠けると言わざるを得ない。

 当会が、同和奨学金事業を担当する同省児童生徒課就学支援係担当者に電話で行ったインタビュー内容は次の通りである。なお、インタビューを行ったのは2009年12月22日だが、その約2週間前に、当会からの質問事項は同省担当者に書面で通知している。

──地域改善対策奨学金の返還状況は自治体によりかなりのバラつきがあります。なかには、数年前まで事実上まともな回収業務をやってこなかった自治体もあります。文科省として、各自治体の返還状況をどう把握していますか。

文科省 奨学金事業自体は自治体の事業であり、奨学金の返還金債権についても地域改善対策奨学金実施要綱11条により、自治体ごとで管理されていると認識しています。

──国が返還状況を把握する筋合いのものでないということですか。

文科省 そういうことです。

──国庫返納額が少ない自治体に対しては、督促や指導などを行っているのでしょうか。

文科省 これも要綱11条により、返還業務は自治体が行うものと規定されていますから、文科省としてとくだん指導、督促を行うものではないと認識しています。国への返納額については、要綱12条3及び4にあるとおり、各自治体が前年度に回収した金額に応じて国に返納するということになっているので、その通り扱っています。

──自治体によっては、国の基準とは別に、独自に返還免除制度を創設しています。これら返還免除制度の内容について、文科省として把握されていますか。

文科省 要綱9条で定めた(世帯の全収入が生活保護世帯基準の1・5倍以内)以外に、自治体が独自の判断で免除制度を設けるのは、奨学金制度とは別の制度であると考えています。文科省としてそれに関知する立場にはありません。

──自治体独自の返還免除制度により、当然国庫返納額もそれだけ減ずることになります。自治体独自の判断で、どのような免除制度を創設してもよいのでしょうか。たとえば、大阪府・市は、返還初年度「奨学金の貸与を受けたものが、幅広く社会に貢献しうる者」と認められれば、以後20年間自動的に返還が免除される制度をとっています。また、京都市では、今年度より、2000年度以前に返還が始まっている借り受け者の返還を、本人の意思や資力を調査することなく、一律に全額免除する制度を実施しています。

文科省 仮に返納額が減ずるような制度を設けることについては国として慎重に判断すべきものと考えています。

──長期間にわたって実質給付制になるような独自の免除制度を作っている自治体が現にあります。それらの制度についても、文科省として慎重に判断した結果是認してきたということですか。

文科省 要綱12条に定める返納金が減ぜられている事例は把握していません。

──独自の免除制度を作ること自体は自治体の判断で国がこれに関知するものではないとしたら、国として自治体がどのような免除制度を作ろうとまったくの自由であるということですか。

文科省 この奨学金制度の免除制度というものはあくまでも要綱9条によるものだけです。そこから離れて事実上の給付制の扱いというのは、奨学金制度とは別に自治体が設けた制度ということですので、その別の制度について国として関知する立場にはないということです。

自治体独自の免除(肩代わり返済)制度
愛知県〕国の基準で返還が免除されない者に対して、返還すべき額と同額を県単独事業である「生涯学習助成費」を給付。
三重県〕「生活困難のため返還が著しく困難であると認められる」者の返還を免除。実際は全員が免除対象となっていた。同制度は20002002年度末で廃止されたが、廃止以前に返還が始まっている借受者は全員引き続き免除。
滋賀県〕世帯の全収入が生活保護世帯基準の2倍以内の場合免除。
京都府〕国の基準で免除されない者全員に対して、府単独事業として返還すべき額と同額の「償還対策資金」を給付。2004年度以降の貸付け分の返済についてのみ、償還対策資金給付にあたって所得制限が導入されたが、現在も全員に給付する実態は変わらず。
大阪府〕「生活困難のため返還が著しく困難であると認められる」者、「社会及び地域に貢献しうる有為な人材」の場合免除。
広島県〕世帯の全収入が生活保護世帯基準の2倍以内の場合免除。
徳島県〕世帯の全収入が生活保護世帯基準の2倍以内の場合免除。
高知県〕世帯の全収入が生活保護世帯基準の2倍以内の場合免除。
佐賀県〕借受者の扶養親族の数が3人までで借受者の年収が500万円以下の場合、同じく扶養親族が4人以上で年収が500万円と借受者の数から3を減じた数に38万円を乗じて得た額との合計額以下である場合免除。
熊本県〕世帯の全収入が生活保護世帯基準の1・9倍以内の場合免除。
名古屋市〕市独自の基準で「生活困難のため返還が著しく困難であると認められる」者の場合免除。例=4人家族(中学生、高校生含む)で年収約680万円以下。
京都市〕市単独事業として借受者全員に対し返還すべき額と同額の「自立促進援助金」を給付。2008年度同制度を廃止するとともに、2000年度以前に返還始期を迎えた借受者に限って返還は全額免除。
大阪市〕「幅広く社会に貢献しうる者であって、また、地域の教育・文化・福祉水準の向上に貢献しうる有為な者と認められる」場合免除。
広島市〕世帯の全収入が生活保護世帯基準の2倍以内の場合免除。

以上

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