偽装だらけの門川氏宣伝本の実態


連載第64回 『ねっとわーく京都』2009年11月号掲載

大河原 壽貴(弁護士)

2008年2月に行われた京都市長選挙の直前に「教育再生への挑戦・市民の共汗で進める京都市の軌跡」という書籍が、公費によって1400冊も購入され、700に及ぶ個人・団体に配布されていました。  この書籍は、1章を割いて門川氏の写真入りインタビュー記事を掲載し、門川氏が選挙の際に宣伝していた政策や実績がそのまま載っているなど、門川氏の宣伝本という他ない書籍でした。この門川氏宣伝本の購入・配布に対して、「市民ウォッチャー・京都」、「京都・市民オンブズパースン委員会」、「for―kyoto」の3団体が、合計617名の市民とともに住民監査請求を行ったことは、従前、このコーナーでもお知らせしたとおりです。その後、監査請求や引き続く住民訴訟の中で、門川氏宣伝本の制作や購入に至る過程が徐々に明らかにされてきましたが、その実態は、「偽装」に満ちた、とても信じがたいものでした。

決裁書類の日付を「偽装」

京都市教育委員会は、公費すなわち税金を使って門川氏宣伝本を1400冊も購入したわけですが、公費を使って購入するわけですから、然るべき決裁書類が作成されなければなりません。この書類は支出負担行為書と呼ばれる書類ですが、この書類を作成するためには、京都市のコンピューターシステムへの登録処理が必要になります。登録処理が行われると、ひとつひとつの支出負担行為書ごとに契約番号と登録処理日時が割り当てられ、これを、後から改変することはできない仕組みとなっています。

ところで、この門川氏宣伝本の購入のための支出負担行為書の登録処理の内容を見てみると、支出負担行為書において起案日・決裁日とされている日付と、システム上の登録処理日時に大きな相違があることが明らかとなったのです。具体的には、2007年10月23日に購入を決定したとされる書類の登録日時(作成日時)は同年12月25日であり、また、同年11月19日に購入を決定したとされる書類の登録日時は翌2008年1月4日や同月21日だったのです。

京都市教育委員会は、門川氏宣伝本の大量購入・配布について、京都市長選挙との関係が取り沙汰されると、「購入を初めに決定したのは、門川氏が立候補を表明する前の2007年10月だから、京都市長選挙とは関係ない」と答弁していたのですが、実際は、その購入決定の日付は「偽装」されていたのです。

ベストセラーを「偽装」

門川氏宣伝本は、書類上は、紀伊國屋書店、ふたば書房、ジュンク堂書店、三省堂書店、阪急電鉄(ブックファースト)、大垣書店の各書店から、それぞれ購入された形式を取られていますが、実際は、各書店との関係では発注書や請求書などの書類と代金がやりとりされているだけで、門川氏宣伝本の書籍そのものは、出版社のPHP研究所から京都市教育委員会に直接納入されています。

門川氏宣伝本が、PHP研究所から京都市教育委員会に直接納入されるのであれば、各書店など通さずにPHP研究所から直接購入すればいいのに、と思うのは私だけでしょうか。実際、出版社から直接購入できれば、取次や書店を通さない分だけ安く購入できるはずで、それだけでも税金のむだ遣いになってしまいます。

ところが、この各書店を通じての購入には、さらに仕掛けがあったのです。住民訴訟の中で、裁判所から各書店に対して、門川氏宣伝本の販売について問い合わせがなされました。その回答の中で、PHP研究所から書店に宛てて、ある書面が送られていたことが明らかになりました。

その書面には、「買上げ、ベストセラー掲載の件で下記の通りご連絡いたします」、「また、店頭でのベストセラー掲示を週間にてお願いします」と記載されており、PHP研究所から書店に対して、ベストセラーとしての掲載・掲示が依頼されていたのです。つまり、門川氏宣伝本のベストセラー掲示は、初めからつくられたベストセラーだったと言えます。

門川氏のインタビューを「偽装」

門川氏宣伝本については、京都市教育委員会の購入の経過や販売方法に「偽装」があっただけではありません。その書籍自体にも「偽装」があったのです。

冒頭、この書籍について、1章を割いて門川氏の写真入りインタビュー記事を掲載した門川氏の宣伝本だと書きましたが、何と、このインタビュー記事自体が「偽装」された記事だったのです。

この書籍の第11章には、「公教育に懸ける祈り〜門川大作教育長に聞く〜」というタイトルがつけられ、門川氏に対するインタビューの形で文章が作られています。書籍の297ページでは、ページの半分を使って門川氏の写真が掲載され、あたかも門川氏が読者に語りかけているようです。そして、章の最後には「平成19年10月29日京都市役所にて」と、インタビューの日時まで丁寧に掲載されています。

しかし、実際は、平成19年10月29日という日付はおろか、門川氏に対するインタビュー自体、全く行われていなかったのです。掲載されている門川氏の写真も、インタビュー時に撮影されたなどというものではなく、京都市教育委員会の手持ちの写真を提供しただけだというのです。まさに「偽装」された書籍と言うほかありません。

ここで、1つの疑問がわいてきます。どうしてここまで「偽装」しなければならないのでしょうか。今後、いずれ明らかにされていくことになると思いますが、やはりそのキーになるのは京都市長選挙です。

インタビューもしていないのに門川氏のインタビュー記事にして、門川氏の写真を掲載したのも、書店に対してベストセラーの掲示の依頼をしたのも、選挙の宣伝のためと考えれば、辻褄が合います。さらに、京都市教育委員会が書類上の日付をさかのぼらせようとしたのも、選挙の宣伝目的で配布したのを隠そうとしたものだと考えれば、やはり辻褄が合います。

行政が、選挙において特定の候補者の支援の目的で、公費を使って宣伝活動をしたとすれば、それは断じて許されない行為です。今後、住民訴訟の中で、門川氏宣伝本の制作、購入、配布の一連の流れを明らかにし、その責任を追及していきたいと思います。読者の皆さんも、この住民訴訟のゆくえに是非ご注目下さい。