運動団体の「公益性」を認めず──解放センター用地ただ貸し事件高裁判決


連載第67回 『ねっとわーく京都』2010年1月号掲載

寺園 敦史(フリーライター)

■漫然とされるがまま

部落解放同盟が入居する京都府部落解放センター(北区=運営・財団法人京都府部落解放推進協会)、京都地域人権運動連合会(旧全解連)が入居していたみかげ会館(左京区=運営・財団法人京都地域人権問題総合センター)の敷地として、京都市が市有地を無償で貸し付けていたのは違法だとして、「市民ウォッチャー・京都」が起こしていた住民訴訟の控訴審判決が2009年11月13日、大阪高裁で言い渡された。

大和陽一郎裁判長は、京都市が「財政健全化プラン」を発表した2004年7月時点において、市は「貸付料を全額免除している点を早急に見直すべき状態にあった」とし、それ以降の契約更新時期を迎えても「別段なんら意思表示を行うことなく、漫然と貸付料が免除された契約が自動更新されるがままとした行為は、裁量権を逸脱し、違法に京都市の財産管理を怠ったもの」と断定した。そして、市長に、当時の文化市民局長に対し約80万円の損害賠償を請求するよう命じた。

特定の主張を掲げ、あるいは特定の党派にくみする一民間団体に過ぎない運動団体の事務所用地をなぜ無料にしなければならないのか。まして団体の実情を多少なりとも知るものからすると首肯しがたい特別待遇であるが、一審判決(2008年12月9日、京都地裁)では原告側の主張はすべて棄却されていた。今回の判決も、違法と認定した時期が遅すぎること、当時の桝本頼兼市長の過失と両財団法人の返還債務は認めなかったことには、大きな不満は残る。ただし、高裁判決が、議会や市民からくり返し問題点を指摘され、また市自らも是正を言明しておきながら、結局は運動団体に対する理由なき特別扱いをやめなかった行政の問題点や、運動団体の「公益性」の乏しさについて、次のように断じたことは、傾聴すべきであろう。

■普遍性に乏しい私的団体

高裁判決が市有地のただ貸しを違法と認定したのは2004年からだったが、しかしそれ以前より「免除する公益性の必要性は、相当に減殺されていた」と言っている。市会では、1991年、1996年、2001年の3回にわたって市と運動団体との関係を改めることなどを求める決議が上がっている。とくに地対財特法失効直前の2001年10月の決議では「地対財特法の期限切れ後も、実質的な同和施策を継続することは市会決議を無視したものであり、決して許されない」と表明されていた。市自身も法失効2か月あまり前に発表した文書で、「運動団体の関係については、議会市民からいささかなりとも疑念を持たれることのないよう主体性をもって対応する」とまで決意表明していているのだ。

また、市財政一般の動きとして、1996年の理財局長通達で貸付料の減免について厳格に見直すよう全庁的に周知されてもいた。そのうえで判決は「このように1996年以降は、本件各契約が公有財産条例の取り扱い基準に適合するかどうか疑問を持ってしかるべき状態になっていた」と指摘した。

解放同盟、人権連の「公益性」についてはこう言っている。両団体は「もっぱら同和地区住民により組織され、同和地区内においてもその住民または地域内世帯を網羅するような団体ではなく、その構成員が相当に限定された普遍性に乏しい私的団体に過ぎない」。そして「京都市と運動団体との不明朗な関係が諸方からの批判を招き、同和行政に対する市民の不信感さえも惹起するに至ったことから、遅くとも1996年頃以降、市民からいささかなりとも疑念をもたれることのないよう健全な関係を形成・維持すべきことが強く求められていた」と再び行政としてやるべきことを怠っていたと批判されているのだ。

高裁判決に対して京都市は、「当該用地はすでに有償化をはかり、適切に管理を行っている。本市の主張が一部認められず残念だ」とコメントした。だが忘れてはならないのは、京都市が賃料を請求し始めたのは、ただ貸しの事実がマスコミ報道され、市会で問題化された2006年9月以降のことであり、報道されるまで市は、ただ貸しの事実をいっさい公表せず、一方で、解放同盟との間で解放センター用地の売却の話を進めようとしていたことである。市有地の無償貸付けは、おそらく京都市による部落解放運動団体に対する、最後の理由なき優遇措置であるはずだが、もしかしたらまだまだ他にあるのかもしれない。

なお、人権連側は2007年12月、みかげ会館を運営していた財団法人を解散するとともにそこから退去し、同会館を京都市に寄付する形で手放した。現在、会館は京都大学の仮校舎として使用されている。