大企業に支払われる補助金


連載第71回 『ねっとわーく京都』2010年6月号掲載

塩見 卓也(弁護士)

企業誘致のために、市内・府内に工場や事業所を新設・増設するにあたり補助金を支出するという制度は、多くの地方自治体にみられます。京都においても、京都府の「京都産業立地戦略21特別対策事業費補助金」や、京都市の「京都市企業立地促進助成制度」などの、企業誘致のための企業への補助金支給制度や、地方税の減免措置の制度が用意されています。

このような制度は、地元での雇用創出につながったり、ベンチャー企業による新産業勃興のきっかけとなったりする点で、適正に運用される限りにおいては意味があると思います。しかし、補助金はあくまでその原資が私達の税金なのですから、その支出は、公益上必要があるといえる対象に対し、適正な手続に従って支出されなければなりません。そうでなければ、地方自治法232条の2に違反する、違法支出ということになるでしょう。

この点、大阪府堺市にシャープの大型テレビ用液晶パネルの工場が誘致されるに際し、136億円もの補助金が大阪府から支出された問題で、大阪地裁堺支部に堺の市民団体から住民訴訟が提起されています。シャープ堺工場の問題では、シャープの工場誘致の話が出始めてから、大阪府は補助金交付上限額をそれまでの30億円から一気に150億円に引き上げ、明らかにシャープを特別に優遇するための措置を採っています。ご存じのとおり、5兆円もの借金を抱えている大阪府は、橋下知事の方針により、財政再建をすると称して、府民の福祉、教育、文化、生活に関連する予算を1100億円も削減しようとしている最中です。このような中で、一企業に対しここまで特別な優遇が行われることについては、はなはだ疑問です。

このような企業に対する補助金支出については、京都でも疑問を感じるものがあります。例えば、今年の3月末で閉鎖されたトステム綾部工場は、京都府や綾部市の誘致を受けたものであり、トステムは京都府から補助金を受けています。補助金交付の目的の一つは、丹波地域での雇用創出です。しかも、トステムはグループ全体では利益を好調に出している業界最大手の企業です。にもかかわらず、やむなく経営難で閉鎖するというのでなく、中国・大連工場に生産を集約するという海外進出戦略のために、綾部工場を閉鎖し、沢山の府民の雇用を失わせてしまっているのです。

また、違法派遣で多くの労働者を受け入れ、にもかかわらずそれらの労働者を派遣切りし、京都労働局からそれら労働者を直接雇用するよう是正指導を受けているジヤトコも、京都府から雇用確保の名目で3億6000万円もの補助金交付を受けています。ジヤトコに対しては、派遣切りした労働者を直接雇用することを求める訴訟も提起されており、私も弁護団の一員です。ジヤトコは、京都労働局の是正指導に反し、労働組合からの直接雇用の要求を頑なに断り続けておきながら、最近は別に新たな派遣労働者の募集を行っているらしいことが、3月21日号の京都民報で報道されています。

補助金は、公益上の必要性がない限り交付できないものです。ということは、補助金交付を受ける企業は、当然公益に貢献することを前提に補助金の交付を申請しているはずです。そして、そのような前提の下で補助金交付を受けている以上、補助金交付を受けた企業には、雇用確保、地域への貢献、地方自治体の税収増への貢献という公益に対する責任があるはずです。

トステムやジヤトコの例を見ても分かるように、必ずしも、補助金交付を受けている企業に、その自覚が備わっているわけではないと思います。そして、そのように公益に対する責任を自覚しない企業に対し補助金を支出することは、地方自治法に反する違法支出といえるのではないでしょうか。少なくとも、紛争状態にあるこれらの企業に新たに補助金が支出されるようなことがあれば、その支出は違法支出である疑いが濃厚といえるでしょう。

松下プラズマディスプレイ事件の原告だった吉岡さんの支援団体は、会社の自らに対する扱いが不法行為であることが最高裁で確定したことを受けて、現在のパナソニック・プラズマディスプレイ社に対して茨木市が補助金を支出していることにつき、茨木市に対し住民監査請求をしています。今後は京都でも、企業に対する補助金支出について、企業の社会貢献の観点から監視を行い、場合によっては住民監査請求、住民訴訟の手続を採る必要があると思います。