木津川市幼稚園用地無償譲渡事件


連載第76回 『ねっとわーく京都』2010年11月号掲載

井関 佳法(弁護士)

木津川市の住民田中康夫さんが、京都地方裁判所で闘っている住民裁判「木津川市幼稚園用地無償譲渡事件」は、劇的な経過をたどり、佳境を迎えています。

この幼稚園用地は(4998.11平方メートル)、近鉄が木津川台を開発するにあたり幼稚園建設用地として木津町に寄付した土地でした。しかし、財政難などの理由で木津町による公立幼稚園開設が進められない中、近鉄からの働きかけがあって、木津町は平成18年12月、民間幼稚園誘致の方針に転換しました。

そして、木津町と近鉄は、合併4日前である2007(平成19)年3月8日、近鉄に幼稚園用地を無償で譲渡することを約束した協定書を締結しました。そして近鉄は同年4月、木津川市を訪ねて幼稚園開設希望者Aがおり「申し分ない」と紹介、以後、Aが開設者となることが既定方針とされました。

木津川市は、この年6月には幼稚園用地を近鉄に引き渡し、9月には近鉄とAが売買契約をむすびました。売買代金は8000万円とされており、近鉄は8000万円を得ました。2008(平成20)年1月末には、木津川市から近鉄へ、さらに3月12日には、近鉄からAへの名義変更も済まされました。

こうした動きに危機感を持った住民田中康夫さんは、2008年3月3日、無償で譲渡するのは違法であるとして、住民監査請求を提出しました。同年4月24日、木津川市監査委員は棄却の決定をだしましたので、5月22日付で、田中さんは、京都地方裁判所に住民裁判を提起しました。

ところが、この間に大変な事態が進行していました。

それは何かと言いますと、Aは、名義変更を受けた2日後である2007年3月14日、この土地を二つに分筆し、その一方(ア、3363.68平方メートル)を、3月17日㈱Bに名義変更し、6月30日㈱Cのために根抵当権を設定しました。他方(イ、1634.28平方メートル)を、3月26日㈱Dに名義変更し、同日㈱Eのため根抵当権を設定していました。

Aが幼稚園を開設しようと思えば、まず学校法人の設立を認可してもらい、幼稚園開設を許可してもらわなければなりません。そのためには、幼稚園敷地建物が自己所有でなければならないとされています。

Aは、分筆名義移転根抵当権設定を、幼稚園建設のための資金調達のため、と証言しました。しかし、Aは、学校法人設立と幼稚園開設に必要な資金は全て手持資金を寄付することで用立てると説明していましたのであり、その説明と異なります。さらに、最初から手元資金がないことが分かっていれば、Aに幼稚園を開設させることになりませんでした。また、手持資金がないから名義を移転し根抵当権を設定したAが、根抵当権を抹消し、名義移転を戻せるはずがありません。

もう一つ、木津川市は、近鉄に、この土地全部を幼稚園用地に使用してもらう前提で無償譲渡しました。

ところがAが幼稚園用地にしようとしていたのは、この土地全部ではなく、(ア)の部分だけでした。幼稚園舎建設の建築確認申請でも、学校法人設立や幼稚園解説申請でも(ア)の部分だけが敷地とされています。

そして2008(平成20)年7月に園舎建設工事が始められましたが、2009(平成21)年1月にはなんと、工事代金不払いのため工事がストップしてしまったのです!

既に、園児募集を行っていたため、入園予定の子ども達に大変辛い思いもさせたのです。その後、今日まで工事再開の動きはなく、工事業者がAを裁判に訴えて、工事代金支払いを命ずる判決まで出されています。

幼稚園はいつ開設できるのか、幼稚園用地は取り戻せるのか、十分な審査やチェックもせずにAを軽信し、住民から出されていた無償譲渡に対する批判と懸念を無視して押し切った木津川市の責任は重大です。

2011(平成23)年4月22日のAの尋問に引き続き、同年9月28日には近鉄と木津川市の担当者の尋問が行われます。ご注目下さい。