原告適格をめぐる争い──京都水族館設置許可取消訴訟の現状


連載第92回 『ねっとわーく京都』2012年4月号掲載

諸富 健(弁護士)

京都市長選挙が終わりました。市民ウォッチャー・京都事務局長でもある中村和雄候補は、約19万票を獲得し、得票率46.1%と大健闘しましたが、残念ながら当選には至りませんでした。今後は、現職市長がどのような市政を進めていくのか、厳しく監視していかなければなりません。

その一つに、京都水族館の問題があります。水族館の設置許可は2010年5月14日になされ、今春(2012年)3月14日にオープンする運びとなっています。水族館建設の経緯・問題点については、2011年8月号に掲載された拙稿をご覧いただきたいのですが、水族館建設に異議を唱える地元住民を中心とした原告71名は、設置許可の取消しを求めて2010年11月9日に提訴しました。そして、本年2月8日、原告適格について判断するということでいったん結審となりました。

原告適格という言葉は聞き慣れない言葉かもしれません。原告適格とは、簡単に言えば、裁判の原告となることができる資格という意味です。自分の土地を明け渡せとか、貸したお金を返せというような民事訴訟においては、原告適格はほとんど問題にはならないのですが、本件訴訟のように行政を相手にする裁判では、原告適格が認められる範囲について、処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限ると法律で定められているため、大きな問題となります。原告適格は、裁判において中身を議論するための前提条件となるものですので、これが認められなければ、中身について判断されることなく門前払いとなってしまいます。

原告適格については、長らく制限的に解釈されてきましたが、次第に原告適格を広く認める最高裁判所の判決が積み重ねられていきました。そして、2004年には判決の流れを踏まえた法律の改正が行われ、原告適格を柔軟に認めることで国民の権利利益の実効的救済を図る途が開かれました。

本件訴訟において、我々弁護団は原告適格について詳細な主張を行い、また、原告の方々には法廷、あるいは書面で様々な思いがこめられた意見を述べていただきました。その結果、原告の方々の健康や生活環境に著しい被害が生じること、原告の方々が梅小路公園を自由に利用する権利が妨げられること、梅小路公園の広域避難場所としての機能が損なわれることは明白となったと考えます。原告適格が広く認められるようになってきた経緯に照らせば、原告の方々が水族館設置許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者であることは間違いありません。

本件訴訟は、2012年4月18日に判決が言い渡されます。この判決で、原告のうち一人でも原告適格が認められれば審理は続きますが、全く原告適格が認められなければ、一審の審理は終了となります。原告適格をめぐる主張を闘わせる中で、広域避難場所の機能低下やCO2の大量排出、騒音や交通渋滞の悪化など様々な問題点が明らかになりました。これらの問題点について、今後も審理を続けていくことでより一層明らかにしていく必要があります。そして、梅小路公園に愛着を抱き、その自然豊かな憩いの場を市民の声を聞くことなく奪おうとする京都市に対して強い怒りを覚えて、勇気を振り絞って提訴に踏み切った原告の方々の思いを、門前払いという形で踏みにじることは絶対に許されません。

京都水族館がオープンをしても、水族館をめぐる問題が終わるわけではありません。まずは、本件訴訟の判決に注目していただき、今後とも水族館問題に関心の目を向けていただくようお願いする次第です。