京都市営住宅の修繕工事の独占問題


連載第104回 『ねっとわーく京都』2013年5月号掲載

中村 和雄(弁護士)

「市民ウォッチャー・京都」が行った情報公開請求の結果、京都市営住宅の入退去等に伴う修繕工事が特定の一部事業者に独占されている事実が判明しました。

向島市営住宅について公開された資料によれば、2009年4月から2012年3月までの3年間の向島1街区の市営住宅の空き家の点検、整備、設備関連取替の修繕工事(以下「修繕工事」と呼びます)は、合計115件でしたが、1件を除く114件のすべてがK社に委託されていました。

この間にK社に支払われた金額は、総額9436万0140円でした。同じ3年間の向島5街区の市営住宅の修繕工事は、合計239件でしたが、1件を除く238件がY社に委託されていました。この間にY社に支払われた金額は総額1億8539万8605円でした。

さらに、同じ3年間の向島8街区の市営住宅の修繕工事は、合計69件でしたが、すべてがO社に委託されていました。同じように同じ期間の9街区の市営住宅の修繕工事は、合計52件でしたが、一件を除く51件がすべて同じO社に委託されていました。そして、同じ3年間の向島10街区の市営住宅の修繕工事は、合計83件でしたが、すべてが同じO社に委託されていました。この間にO社に支払われた支払金額は総額1億8603万1650円でした。また、同じ3年間の向島11街区の修繕工事は、合計119件でしたが、すべてがJ社に委託されていました。この間にJ社に支払われた支払金額は総額1億3244万7500円でした。

向島団地にある市営住宅は、1街区、5街区、8街区、9街区、10街区および11街区の6街区だけです。そのほとんどすべての修繕工事が特定の4社だけで行われているのです。3年間だけでも4社への委託総額は5億9823万7895円、ざっと6億円です。1社あたり1億5000万円、1年間5000万円の計算です。構造不況の中で、仕事をしたくても仕事がない中小零細建設事業者が溢れている中で、これは事業者にとってとてつもなく美味しい仕事です。事業者にとってとてつもなく魅力的な仕事であることは間違いないのですが、果たしてこの支払額が適切なものであったと評価できるかについては甚だ疑問です。支払いは、すべて京都市からの支出なのです。もし、支払額が相場に比べて異常に高いのであれば、それは入居者や京都市民が不当な支払いを負担させられていることになるのです。京都市民の税金の無駄遣いです。

本来、市営住宅修繕工事のような公共工事の業者選定は、競争入札によることが原則とされています。工事をしたいと希望する事業者は可能な工事価格を書いて申し込み、最も安い価格で申し込んだ事業者に工事が委託されるという構造です。ところが、市営住宅の修繕工事の業者選定は、工事ごとに入札をする仕組みとはなっていないのです。

情報公開請求の結果、京都市は、市営住宅の管理運営を京都市住宅供給公社に丸投げしており、自らは一切チェックしていないこともわかりました。そして、京都市住宅供給公社は、一定期間のすべての修繕工事を行うことを街区ごとに特定の1事業者だけに認めているのです。具体的な修繕工事が適正な価格で行われたのか否か、京都市住宅供給公社はもちろん、委託している京都市もきちんとチェックしていなければおかしいのですが、まったくなされていません。。

京都市関係者の適切な対応を求めた私たちの住民監査請求に対して、京都市監査委員会は、これは京都市住宅供給公社が行っていることであり京都市とは関係がない、として請求を排斥しました。本来、市営住宅の運営管理は京都市の責任においてなされるべきことです。勝手に公社を作って委託してしまえば責任はなくなるのだというのは,とんでもない考えです。しかも、住宅供給公社は民間会社ではありません。すべて京都市の出資です。監査委員会の考え方は、住民の立場にたって行政を監視するという本来の監査制度の役割を完全に放棄するものです。こんな監査委員会ではまったく役に立ちません。

一部の事業者だけが長年にわたって行政から特別の恩恵を受け続ける。こんな行政では健全な住民サービスを提供することはできません。住民の暮らしや安全を守ることも期待できません。私たちは、この問題について裁判を準備しています。ぜひ、京都市議会でも議論いただき、公正・公平な制度への転換が早期に実現することを望むものです。