秘密保護法でオンブズマンは死ぬ


連載第109回 『ねっとわー京都』2013年11月号掲載

井関 佳法(弁護士)

9月3日、政府は「特定秘密の保護に関する法律案の概要」を発表した。

行政機関の長が、防衛・外交・テロ防止など我が国の安全保障に関する情報で、特に秘匿することが必要であるものを「特定秘密」と指定でき、指定された情報の故意、過失の漏洩、さらにその共謀や教唆、その取得行為まで処罰対象にすると定めて、懲役10年という重罰で臨むとする。

この秘密保護法案に懸念と不安の声が急速に広がっている。12日には、日弁連が反対の意見書を公表し、禁止範囲のあいまいさ、処罰範囲が広すぎること、表現の自由と知る権利を萎縮させるなど全面的に問題点明らかにした。13日には、女優の藤原紀香さんが、ブログで取り上げて話題になっている。自身も政府に意見を提出し、反対の声を上げるよう呼びかけている。さらに17日には、日本ペンクラブが反対声明を表明し、作家の浅田次郎会長が記者会見し「これを悪用する人がいたら、いくらでもできる」と警戒を呼びかけている。

実は、9月7、8日、京都で第20回全国市民オンブズマン大会が開かれた。20年余を刻むこととなった市民オンブズマンという形の活動は、金も力もない市民によるものだが、振り返れば大きな成果を上げてきたとオンブズマンたちは自負している。「主人公は私たちだ、私たちは自分で考える、だから全てを隠さず知らせよ。税金はあなたたちのものではない、大切に使い無駄遣いはやめよ」。この、当たり前だが、これまで全く顧みられなかった重要な目標を掲げて、一歩一歩前進してきたと言えるのではないだろうか。

しかし、秘密保護法でオンブズマン活動は壊滅させられる。秘密保護法ができれば、情報が出てこなくなる。特定秘密の指定の適否を情報公開訴訟で争うこともまず無理になるだろう。特定秘密の指定に歯止めをかける者は誰もおらず、特定秘密の指定のし放題でとなる。

オンブズマンには、情報提供が寄せられる。行政内部の者から寄せられることもある。その行政マンが一方的に情報を送ってきた場合でも、情報漏洩という犯罪を行った行政マンの捜査の一環で、オンブズマンも捜索差押や取り調べの対象とされうる。情報提供者とオンブズマントの間で、仮に、「○○の情報を知っていますがお知らせしましょう」と電話があって、「はい」と言って情報提供者の話を聞いた場合、オンブズマン自身が、情報漏洩を共謀あるいは、そそのかし教唆したこと件で犯罪者とされる可能性がある。110番活動は、オンブズマン活動の一分野となっているが、これは立派な情報漏洩のそそのかしとされるだろう。たまたま訪ねた行政のカウンター越しに、机の上の資料が目に入ったので、それを読み記憶した場合、特定秘密の取得行為(特定秘密の保有者の管理を害する行為)に該当すると言われる可能性がある。

第20回市民オンブズマン京都大会は、秘密保護「法案が…私たちの行政監視活動を著しく妨害することが必至であることを確認した。」

脱原発運動も

秘密保護法で打撃を受けるのは、もちろん、オンブズマンだけではない。京都大会の宣言は、先の引用に続けて「法制度の制定が市民オンブズマン活動への支障となるだけでなく、この国の情報公開の流れを著しく後退させることを意味する。」と警鐘を鳴らしている。
深刻な打撃を必ず受ける分野の筆頭は脱原発運動だろう。原子力発電は、原爆製造に隣接している上、原発事故のリスク要因には、地震や津波だけはなく、いわゆる新基準ではテロも含められている。テロリストの外部からの侵入ということを言い出せば原発の内部の配置図等、テロリストに狙われやすい箇所という意味では原子炉の構造等も、行政が設置許可申請などの手続きで取得した情報が、特定秘密に指定されうる。そうなれば、原発のどこがどう危険なのかを具体的に市民が議論することすらできなくなり、京都地裁にかかっている大飯原発差し止め訴訟でも、こうした基本的な情報が法廷に出せなくなる可能性がある。

平和運動も

平和運動は、これまでのような活動が全くできなくなる可能性がある。自衛隊基地や米軍基地の監視活動が取り組まれてきたが、その中で、望遠レンズで配備兵器を見分けた場合、あるいは、住民の爆音被害対策のためオスプレイの飛行ルートを観察して明らかにした場合、特定秘密の取得行為に該当すると言われる可能性がある。あるいは、自衛隊員やその家族を対象に、イラク派遣110番が取り組まれれば、情報漏洩の教唆に該当するかもしれない。

政府は、秘密保全法に対するパブコメ期間をたった2週間しか認めず、この秋の臨時国会に上程して通してしまうつもりである。しかし、そんな簡単に通してよい法律でないことは間違いない。