「呪縛」いまだ解かれず 京都市クリーンセンター「闇早退」問題


連載第119回 『ねっとわーく京都』2014年10月号掲載

寺園 敦史(ライター)
一掃されていなかった非常識な慣行

2006年から07年にかけて、京都市は毎年のように逮捕される市職員を出す異常な自治体として、全国から注目を浴びていた。細かな説明は省くが、市は2006年8月、「信頼回復と再生のための抜本改革大綱」を策定、とくに多数の逮捕者を出していた環境局については「解体的出直しを行う」と宣言し、不祥事の根絶に取り組むことになる。また、2008年の市長選で当選した門川市長は、教育長時代の立場をにわかに豹変させ、外部の有識者による「総点検委員会」の報告書に基づき、市政混乱の土壌をつくったといえる非常識な部落解放運動団体との関係を全面的に見直し、市政の透明性を高める姿勢に転じた。

これ以降、課題は積み残しながらも、市は、少なくとも不正を生み出す要因ともなっていた運動団体の特別扱いや、環境局をはじめ非常識な職場慣行の見直しについては、おおむね果たされたものと、わたし自身は考えていた。しかし、それは少々楽観的で皮相な見方だったのかもしれない。

当局公認の「早帰り」

「闇早退」問題が発覚したのは、昨年(2013年)10月21日の市会くらし環境委員会での寺田一博議員(自民)の質問からだった。

市内に3か所ある環境局クリーンセンターでは職員用の送迎バスがセンターと最寄り駅間を運行している。センターの勤務は2交代制で終業時刻はそれぞれ午後5時15分と午前9時15分。ところが終業した職員が乗車するバス発車時刻もこれと同時刻なのだ。「5時15分まで働く人が、午後5時15分に発車するバスに乗るなんてことができるのか」と指摘する寺田議員に対し、はじめ「その何が問題ですか?」といった答弁をしていた環境局側だったが、その後実情を実地調査した結果、次のことがわかった。

●バスは終業時刻に発車しており、(当然だが)職員はその前から乗車していた。
●バス利用者だけでなく、マイカーで通勤している職員の中には、バスと同時刻に退出していた職員がいた。

これを受け環境局は、センター発のバス発車時刻をそれぞれ15分遅らせる措置を取った。

相当広い敷地の各クリーンセンターでの業務を終えた職員が、終業時刻と同時に発車するバス(あるいはマイカー)に乗車するためには、着がえなどの時間をのぞいても、当然終業時刻前に業務を終えていなければならず、各センターでは定められた終業時刻のかなり前に業務を切り上げるという、いわば「闇早退」ともいうべき実態が当局公認で常態化していたことになる。

「職務に従事していると見ることはできない」

いつからこの運行ダイヤは始まったかについては市側も把握していない。市民ウォッチャーが関連文書を情報公開請求したところ、遅くとも2008年度時点においてすでに始まっていることだけは確認できた。

2008年度といえば、不祥事続きの環境局をはじめ市全体が、市民的な合意が得られない職場慣行の一掃に取り組んでいた時期である。「解体的出直し」を強いられていた時期でさえ、こんなわかりやすい不合理な制度が見過ごされてきたことになる。

市民ウォッチャー・京都では今年(2014年)3月、各クリーンセンターの「乗車数月別報告書」などをもとに、闇早退分と推計される給料約3630万円(2008年4月から2013年10月末まで)の返還を求め住民監査請求した。

監査結果(今年5月)は棄却(一部却下)だったが、違法な闇早退は行われていないと断定したわけではない。職員がどれだけ正規の時間前に勤務を終えているのか立証することが不可能であり市に損害を与えたかどうか認定できない、というのがその理由だった。

同時に監査委員は次の意見を付した。

「市民の目線に立てば、職員が職務に従事していないとの印象を与えるものと思われ、とくに、建物から離れ、勤務時間終了前に送迎バスに乗り込んでいた状態については、到底、職務に従事していると見ることはできない」

棄却という結論には同意できないが、現状の問題点の指摘についてはわれわれの主張に沿うものだといえる。

一方、京都市は審理で、終業前に職員がバスに乗り込んではいるが、彼らはたんに「待機」しているだけであり、上司の指揮命令下にあることには変わりはない、と反論した(監査委員はこの主張を一蹴)。全体ではないにしろ、市の一部は今も過去のしがらみによる呪縛から脱け出せないでいるようだ。