文化庁京都移転 賛成ですか?反対ですか?


連載第144回 『ねっとわーく京都』2017年2月号掲載

井関 佳法(弁護士)

2016年3月、政府は文化庁の京都移転を決定しました。当初、昨年夏には移転先が明らかにされると言われていました。しかし、8月までに決まったのは、30名の先発部隊(地域文化創生本部)が2017年から始動することだけでした。移転先の決定は1年伸びて2017年8月に、本格移転は2019年となると言われています。移転先について府警本部と言ったり国立博物館と言ったりする馳文科大臣にも翻弄されてきました。なかなか京都府市の思うようには進んでいない状況です。

みっともない要望

2016年1月、京都府知事、京都市長、京都商工会議所会頭が連名で、要望書を政府に提出しました。

「日本の為 文化庁を京都へ」「政治と行政の英断をお願いし、京都も日本の為、左記のとおり応分の責務を果たすことをお約束したい」。「一、文化庁を京都に移転する。一、移設土地は京都で提供する。いくつかの候補地を提示し、関係省庁と協議したい。一、庁舎の建設費用については、地元も応分の負担をする用意がある。一、職員等の受入れ(住宅等)については、関係省庁と協議し、地元も協力する」。

「京都ぎらい」の井上章一さんは、2016年1月10日朝日新聞で「精華町に国立国会図書館関西館が出来たときは、東京採用の職員は京都行きを「左遷だ」と言って嫌がったと聞く。今も霞ヶ関の役人たちは「京都は観光の町としては楽しいが、あんなところで仕事はできない」と言っている。そんな人たちをなだめすかして、何が何でも来てくださいというのはみっともない」とコメントしました。

負担は違法支出にならないか

みっともないだけでなく、こんな約束をしてしまってよいのでしょうか。私たち市民ウォッチャーは、京都の公金が違法に支出されないよう監視したいと思っています。ただ、公金の違法支出の他にも、考えなければいけない問題があるようです。

美術史家・大阪大名誉教授の木村重信さんは、2016年8月26日朝日新聞で「何らかの『期待できること』があるのだろうか。私は懐疑的である。文化庁の京都移転は、地方創成の名のもと、東京一極集中を是正する施策の一環として打ち出されている。たしかに大事なことだが、あまたの省庁の中で極めて小さな組織だけを動かし、『頑張ってます』と国民に見せかけているだけと映る」「フランスでは国家予算の0.8〜0.9%が文化芸術関係に充てられているが、我が国では、国家予算どころか文科予算の1%にも充たないのが現実だ。なにより重要なのは、国が文化に対する明快なビジョンを打ち出し、文科省、文化庁の社会的地位を上げていくことだ。今回の移転では、残念ながら期待できない」とコメントしました。

東京一極集中の是正

木村さんは、まず、そもそもの旗印だったはずの地方創成、東京一極集中の是正が単なる看板になってしまっている問題を指摘されています。文化庁官僚だけでなく、いざ地方移転となると、強い反対の声が起きるようです。地方創成や東京一極集中の是正の観点からの検討も疎かにはできないでしょう。

文化庁の予算増額、地位向上こそ

木村さんは、さらに、日本の文化行政の真の課題が、文化行政予算の抜本的増額と、文化庁の地位の抜本向上であり、そのことを抜きに京都移転に意味はあるのかと問題を提起されています。

文化庁がもうけ上手の役所に!?

文化庁の一番の仕事は何か。この点、文化庁の京都移転にあわせて、文化行政を文化財保存型から、文化芸術を資源とみて活用する型へと転換させる動きが進められています。文科省事務次官が座長を務める文化庁移転協議会が「文化芸術を資源としてとらえ、文化芸術への投資が新たな社会の発展、経済成長にもつながっていくよう」提言しています(「文化庁の移転の概要について」2016年8月)。文化庁は京都移転を機に、もうけ上手の役所になってしまうのでしょうか。この点の注視も必要なようです。