差別解消に逆行する同和教育・啓発の復活!


連載第150回 『ねっとわーく京都』2017年7月号掲載

中野 宏之(京都市教職員組合副委員長)

2016年12月に「部落差別の解消の推進に関する法律」が成立しました。

そして、今年の2月18日に京都市・京都府・京都市教育委員会・京都府教育委員会が後援し、「第48回人権交流京都市研究集会」が大谷大学で開催されました。その中では、「部落差別解消法とこれからの展望」と題する講演が行われ、「法」制定の意義として、①部落差別の解消が法の目的に初めて取り入れられたこと、②部落差別解消へ向けた教育や啓発の必要性が明らかにされたことなどがあげられています。

長年京都市では歪んだ同和行政が行われてきました。

京都市自らが設置した「京都市同和行政終結後の行政の在り方総点検委員会」(平成21年3月)報告では、「法期限後も特別施策が継続されてきたかの印象を市民に与え、同和問題の真の解決のための支障ともなりかねないものであり、京都市は、この点について、謙虚に受け止め、必要な改革、見直しを速やかに実施すること…」が求められた経緯があります。

また、学校現場でも、同和啓発を行う保護者懇談会では、授業参観に来ていた多くの保護者が帰ってしまい、数人しか残らないことを、多くの教師が経験してきました。

一方的に保護者を「差別する側」と決めつけた啓発が、多くの保護者の反発を招いてきました。京都市では、歪んだ同和施策や同和啓発が、市民に逆差別的な印象をあたえ、結果として部落差別の解消に逆行してきた苦い経験があります。

今回の「法律」の成立によって、「新たな施策やとりくみが復活しないか」行政や学校関係者から危惧する声があがっています。

実際に「法律」を根拠に、一部運動団体が自治体や学校現場に新たな調査を求める動きがあります。

具体的には、被差別地区(旧同和地区)を主たる対象とする就労実態調査、居住に関する調査、進学率や学力に関する実態調査を行うよう求めています。旧同和地区内外の結婚や混住がすすみ、地域の実態が大きく変容する中で、①調査結果に科学的な意味があるのか、②新たな同和地区の掘り起こしにつながらないのか、大いに疑問です。

すべての特別施策が終了し、法的に地区指定もない中で、一部の子どもや特定の地域を旧同和地区出身とか旧同和地域と決める法的根拠はありません。また、学校にそれを決める権限もありません。もしそれを現在もやり続けていたり、新たに実施することがあれば、部落差別の解消どころか、部落差別を永続化させることにつながりかねません。

京都市教育委員会は、2010年(平成22年)に人権教育の指針である「学校における人権教育をすすめるにあたって」を作成し、人権問題の中で、同和問題を特別扱いしない、人権問題の一つとしてとり扱う立場を確立しました。この方針転換によって、教職員研修や人権学活の内容も変化してきています。

現在、子どもたちの目の前に部落差別の実態はありません。したがって、子どもたちに個人の尊厳、互いの違いや多様性を尊重するなどの人権問題を扱う題材として部落問題は適当ではなくなってきています。むしろ、目の前にある「いじめの問題」「在日外国人の問題」「障害者の問題」「非正規労働者の問題」「男女差別の問題」など、子どもたちが実際に向き合う課題をしっかり学習することが重要です。

とりわけ、その根幹にある憲法についてしっかり学ぶことが、あらゆる差別や偏見を見抜き、人権を尊重する子どもたちを育てることにつながります。もちろん、人権を尊重する教育を実践するために教職員の研修が必要です。

そのために教職員に必要なことは時間です。過労死寸前まで働き、家と学校を往復している教職員には、社会に目を開き、人権問題を考え実践するための体験や人との交流こそ必要です。

世界と日本で拝外主義的な思想が広がる中、ネット上では部落差別を含めてヘイトスピーチなどが横行しているのも事実です。

その解消に必要なことは、同和教育や啓発、施策の復活ではなく、個人の尊厳を尊重した憲法の理念を行政施策や教育に活かすことではないでしょうか。