文化パルク城陽のセール・アンド・リースバックが抱える問題点


連載第156回 『ねっとわーく京都』2018年2月号掲載

大河原 としたか(弁護士)

文化パルク城陽の「セール・アンド・リースバック」

2017年11月21日、城陽市は、文化パルク城陽について、NTTファイナンス株式会社に対し、セール・アンド・リースバック方式による売却を行う方針を定めました。本稿出稿の時点では城陽市議会の議決はなされていませんが、2017年12月議会で可決されれば、文化パルク城陽のセール・アンド・リースバック方式による売却が決まることとなります。

「セール・アンド・リースバック」と言われても、一体どういうことか分からない方も少なくないと思います。文化パルク城陽の例で言えば、城陽市がNTTファイナンス(株)に対して、いったん文化パルク城陽を80億円で売却し、城陽市はNTTファイナンス(株)から、文化パルク城陽を25年間借りることとなります。

その賃料は年間3億9960万円、25年間で99億9000万円となると報道されています。そして、25年が経過した2043年ころの時点で、築約48年になった文化パルク城陽が、城陽市の所有に戻ることとなる、そんな契約です。

「文化パルク城陽」を売却することは法律上可能なのか?

文化パルク城陽は、多目的コンサートホールとしてのプラムホール(大ホール・1305席)、ふれあいホール(小ホール・324席)や、プラネタリウム(252席)、城陽市立図書館、城陽市歴史民俗資料館、会議室、売店、レストラン等を備えた施設です。

城陽市は、「城陽市文化パルク城陽の設置及び管理に関する条例」を定め、その第1条で「市民が芸術に感動し、文化を創造し、共に交歓する場を提供することにより、市民の文化活動の向上を図り、もって市民福祉の増進に寄与するため」に設置したものと定めています。

そして、同条例第3条では、文化パルク城陽の施設は、「(1)文化ホール(プラムホール、ふれあいホール、市民プラザ、会議室等)、(2)こども館(コスモホール及びプレイルーム)、(3)コミュニティセンター、(4)図書館、(5)歴史民俗資料館、(6)公園」をもって構成すると定められています。

ここで、地方自治法第238条3項は、地方公共団体が所有する財産について「行政財産」と「普通財産」に分類すると定めています。そして、「行政財産」については、同法第238条の4第1項において、一定の場合を除いて「貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することはできない」と定められており、売却を含めて処分することが厳しく制限され、これに反する行為は無効とされています(同条第6項)。

これらの規定は、「行政財産」が、地方自治体が行政を執行するための物的な手段となるものであって、行政目的の達成のために利用されるべきものであるため、売却などの処分を認めてしまうと、財産の効用を減少させ、行政目的を達成できなくなるおそれがあるために定められているとされています。

それでは、文化パルク城陽は「行政財産」にあたるのでしょうか。

「行政財産」とは、「普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することを決定した財産」(同法238条第4項)です。「公共用」に供する財産とは、住民の一般的共同利用に供することをその本来の目的とするもので、道路、病院、福祉施設、学校、公園等の敷地及び建物などがあげられます。

文化パルク城陽は、少なくとも条例でもって「公園」をもって構成するとされ、文化ホールやコミュニティセンター、図書館など公共の用に供することを本来の目的としていることは明らかです。文化パルク城陽は「行政財産」であって、売却することは地方自治法上許されないはずなのです。

「セール・アンド・リースバック」は本当に合理的な選択なのか

城陽市は、文化パルク城陽を80億円で売却して、以後25年間、合計約100億円のリース料を支払う方針だと報じられています。単純に考えても、自分の持ち物を他人に売却した上で、賃料を支払って借りること、しかも、支払う賃料の方が高額であることの不合理性は誰の目にも明らかです。

地方自治法は「地方公共団体は、(中略)最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と定め、地方財政法は「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」と定めています。今回、城陽市が行おうとしているセール・アンド・リースバックは、これらの規定にも反するものです。

これが、民間企業で、当面の資金繰りに窮しつつも、数年後に大幅な増収、増益が見込める予測があるのであれば、当面の資金調達としてのセール・アンド・リースバックの手法もありうるでしょう。

しかしながら、地方公共団体である城陽市が同様の手法を用いることが許されるのでしょうか。城陽市は、将来的に差額の約20億円を超えるような大幅な税収増の確実な見通しを持っているのでしょうか。そうでなければ、市民の血税をNTTファイナンス(株)という一民間企業に垂れ流す結果にしかならないのではないでしょうか。

さらに、文化パルク城陽の所有権が一民間企業に移ることで、当該企業が破綻した場合に文化パルク城陽がどうなるのか、破綻に至らないまでも、当該企業の経営状況次第で、リース料の引き上げなどの事態が起こり得るのではないか、など、将来的な安定性が失われるおそれは否定できません。

今回、城陽市が行おうとしている、文化パルク城陽のセール・アンド・リースバックについては、本来、地方自治法上許されることなのかどうかの検討に加えて、城陽市にとって本当に必要なことなのか、合理的な選択なのかといったことが慎重に検討されなければならないのではないでしょうか。0