時代遅れの京都府警の姿勢──公文書部分公開決定の取消訴訟の意義


連載第72回 『ねっとわーく京都』2010年7月号掲載

諸富 健(弁護士)

2010年4月20日、「市民ウォッチャー・京都」は、京都府を相手取り、京都府警職員の懲戒処分に係る公文書の一部非開示決定に対する取消訴訟を提起した。本稿では、提訴に至る経緯及び本訴訟の意義について述べたい。

2009年8月の全国市民オンブズマン大会において、警察内部の不正を隠蔽するシステムとしての恣意的な人事が問題となった。その実態を明らかにすべく、同年9月、「市民ウォッチャー・京都」は,京都府警に対して、職員の過去の懲戒処分・内部処分を示す公文書の公開を請求した。公開された公文書を検討すると、首をかしげるような処分が散見された。

例えば、警部が直属の部下である女性職員を言葉巧みに誘い出して、ホテルにおいて嫌がる同職員に対して抱きつく等のセクシャル・ハラスメントをした事案において、戒告処分で済んでいる。また、警部補が事件相談で知り合った女性に対して、車内やホテルにおいて胸を触ったりスカートの中に手を入れたりした事案においても、戒告処分で済んでいる。一方、警部補が女性と不倫関係に陥ったが、別れ話を契機にメール送信をするなど交際を継続した事案において、減給1月(10/100)の処分を受けており、戒告処分で済んだ前2件と比べてバランスを失しているように思われる。さらに、不適切な異性交際による処分は多数散見されるが、所属長の注意・訓戒で済んでいる事案も多く、どういう理由で処分の違いがあるのか全く不明であった。

このように不可解な処分の実態の一端が明らかとなったが、公開された公文書は概要が記載されているのみであったことから、より詳しい情報がないのか京都府警に問い合わせた。当初、京都府警は、公開した文書以外に懲戒処分に関する文書は存在しないと述べてきたが、懲戒手続にのっとって処分がなされている以上、より詳しい公文書が残っているはずだと追及した。すると、京都府警は、懲戒処分に係る事実調査報告書、懲戒審査要求書、勧告書といった公文書が存在することを明らかにした。

そこで、「市民ウォッチャー・京都」は、2009年12月、改めて過去3年間分の上記公文書の公開を請求した。その結果、12件の懲戒処分に係る上記公文書が公開されたのだが、かなりの部分が黒塗りされていた。個人に関する情報の部分など、黒塗りされていてもやむを得ないものも確かにあった。

しかし、事実調査報告書及び懲戒審査要求書添付の申立書の処分意見欄等が開示されない理由については首肯しがたいものがあった。その理由とは、処分意見欄等の懲戒処分の量定に係る加重又は軽減すべき事情等の検討内容が記録されている部分は、「これを公にすることによって、今後の公正な処分等、適正な監察業務及び公正かつ円滑な人事管理に係る事務に支障を及ぼすおそれがあるため」ということであった。

しかし、この部分は、懲戒処分の量定の判断要素を示すものであり、この部分が公開されなければ、各職員がどういう理由で当該懲戒処分を受けたのか検証することができない。先に具体例を挙げたが、各処分が妥当だったのかどうかもこの部分が公開されなければ全く闇のままとなってしまう。この部分を公開してこそ、各職員が行動の予測可能性をもつことができる上、今後の監察業務及び人事管理に係る事務において恣意的な遂行を排することができるのであり、「適正な監察業務及び公正かつ円滑な人事管理に係る事務」の実現が可能となる。そこで、「市民ウォッチャー・京都」は、京都府を相手取り、当該部分に焦点を絞って、公文書部分公開決定の取消訴訟を提起したのである。

公文書の公開を求めた経緯を見ても、京都府警が情報公開に消極的な姿勢をとっていることは明らかである。また、今回のような黒塗りを許していては、京都府警の恣意的な人事を見逃す結果となる。行政の透明性が叫ばれている現代、京都府警の姿勢はもはや時代遅れと言っても過言でない。本訴訟を通じて、情報公開の重要性を明らかにするとともに、京都府警の適正かつ公正な人事の実現へとつなげていきたい。

本訴訟は、新聞社2社が記事にとりあげ、NHKがニュースで流す(私は見ていないが)など、マスコミの関心も高い。是非、今後の裁判の動向に注目していただきたい。なお、第1回期日は、6月10日(木)午後3時半から京都地裁の203号法廷で開かれる。