京都府教育委員会報酬事件


連載第77回 『ねっとわーく京都』2010年12月号掲載

畑地 雅之(弁護士)

京都府教育委員会では、非常勤の教育委員5名に対する月額報酬として、委員長には30万6900円、委員長以外の委員には27万9000円がそれぞれ支払われています。これらは、各教育委員の勤務実績に関係なく、一律に支給される「固定給」となっています。

こうした教育委員を含む「非常勤の監査委員その他委員」の報酬支給のあり方について、地方自治法203条の2第2項本文では、「その勤務日数に応じて支給する」とあり、教育委員などの非常勤の行政委員の報酬は勤務日数に応じて支給されることが原則であることが規定されています。

この規定の趣旨は、教育委員などの特別職に対する報酬は、その「地位」にあることに対する対価ではなく、あくまで「勤務」に対する対価であるということを明らかにすることで、不明朗・不公正な報酬支給を防止することにあります。

ところが、同項のただし書きでは、「条例で特別の定めをした場合、この限りでない」と、例外を認める規定があります。このためか、京都府教育委員会の場合は、「京都府教育委員会委員の報酬並びに費用弁償条例」に基づいて、毎月の月額報酬が勤務実績に関係なく一律に支給される扱いとなっています。こうした非常勤の行政委員に対する「月額報酬制」は他の都道府県においても広く採用されている状況です。

しかし、条例があればどんな例外でも認められるというような扱いがまかりとおれば、原則を定めた規定が意味をなしません。「原則」があったうえでの特別の「例外」なのです。滋賀県の労働委員会、収用委員会及び選挙管理委員会の各委員に対する「月額報酬制」が違法であるとして、各委員への月額報酬の支出の差止めを求めた住民訴訟の第一審判決では、この例外規定は「(各委員の)業務の繁忙度等から、勤務実態が常勤の職員と異ならないといえる場合に限られる」(大津地裁2009年1月22日判決)と判断して、住民側が勝訴しています。

では、教育委員の勤務実績はどうか。京都府教育委員会のホームページで会議議事録を確認したところ、2008年度で見ると、京都府教育委員会の定例会議及び臨時会議は合計17回しか開かれておらず、その平均会議時間は1時間にも及びません。

地方自治法上の「原則の例外」ということを前提にすれば、いかに教育委員の職務や責任が重大であり、その活動の評価が会議への出席以外の部分に及ぶと考えたとしても、その勤務実績を全く考慮することなく「固定給」として月額報酬を支給し続けることには、大いに疑問が残ります。

まして、京都府が財政的困難に直面している現在に至っては、何らの合理性を見出すことはできないでしょう。実質的には教育委員という「地位」にあることの対価として報酬が支給されているのと変わらないのであり、地方自治法に反する扱いだと思います。

そこで、市民ウォッチャー・京都では、2010年11月に、「月額報酬制」を定めた条例が違法であり京都府に多額の損害を与えているとして、教育委員に対する報酬支払いの停止や条例の改正など、京都府知事に必要な措置を求めるよう住民監査請求を行いました。

そして、監査結果は残念ながら「棄却」でしたので、2011年2月、京都府知事を被告(注)に、月額報酬支出の差止めと、過去15ヶ月分の月額報酬の支給が違法な公金支出にあたるとして、各委員に返還請求するよう求める住民訴訟を京都地裁に提起しました。これまで3回の口頭弁論があり、次回の口頭弁論期日は11月16日です。

なお、提訴後、先ほど紹介しました大津地裁判決の控訴審判決が大阪高裁(2010年4月27日)であり、住民側の勝訴部分が一部棄却(ほんの一部分ですが)されるなどの変更がありました。しかし、委員の報酬をめぐる「原則の例外」の問題において、それほど深刻な判断が示されたわけではありません。

大阪高裁判決では、勤務日数に応じて支給するという原則の例外として正当化できる例として、「役所における勤務量が必ずしも多くはない場合でも、役所外の勤務執行や役所の内外での勤務に備えての待機等が多いなど事実上の拘束がある場合」「勤務量を認識することが困難で、日額報酬制をとるのが不相当と判断される場合」、「職責が極めて重大で、そのこと又はその他の事情により任期中の委員の生活に対し大きな制約が生じる場合」など、限定的な場面を想定して判断をしています。少なくとも「条例で定めてさえおけば、すべてオッケー」という訳にはいかないということです。

今後、被告側から詳細な反論が提出され、大阪高裁判決も踏まえた議論が展開される予定です。ご注目いただければ幸いです。

(注)提訴後、報酬支給の権限が京都府知事から京都府教育委員会教育長(教育委員会の委員長とは別の役職)に委任していることが判明したため、被告変更申立手続きを経て、現在の被告は京都府教育委員会教育長となっています。