連載第78回 『ねっとわーく京都』2011年1月号掲載
奥村 一彦(弁護士)
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標題の裁判が、2010年9月24日付け最高裁決定をもって、一部勝訴が確定しました。
この裁判は、2006年9月21日、京都地裁に提訴したものです。被告は当時の桝本市長(後に門川市長)で、相手方として歴代の市局長、財団法人部落解放推進協会及び財団法人京都地域人権問題総合センター(当時、その後清算団体に変更)でした。
請求内容は、財団法人部落解放推進協会が建てた建物(解放センター、北区)と財団法人京都地域人権問題総合センターが建て建物(みかげ会館、左京区、現在京都市に譲渡)の敷地は京都市の公有財産であるが、京都市がその土地を無償で使用させているのは違法であり、使用料相当を過去に遡って賠償せよというものでした。
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本来、京都市の公有財産の貸付は有償でなければならないという市条例があるのですが、両財団とも建物を建築した1981(昭和56)年又は1985(昭和60)年以後、提訴時期まで20年以上にわたり、ずっと無償で使用してきていたのです。さらに、建物自体の固定資産税まで京都市から免除されていたことも裁判の中で判明しました。
そのうえ、両団体とも収益事業まで展開していたのです。例えば、解放センターでは、会館の会議室を貸し出して、貸出料を徴収するなどし、これまでに億を超える利益を上げているのです。
土地使用料は無償、固定資産税まで免除されているうえに、そこで収益事業をやり、利益をあげる、こんなやりたい放題が現在の市民の共感など到底得られるわけがありません。折しも京都市職員の覚醒剤事件などでマスコミが注目するなか、もうひとつの京都市の抱える大きな問題として同和問題が取り上げられ、市民ウオッチャーの会員による監査請求により本件問題が浮かび上がってきたのです。
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高裁判決を引用します。
「そもそも本件各契約(注:土地の無償使用契約のこと)は、その当事者が財団法人である両財団であるとはいっても、その専ら目的とするところは、京都府連及び人権連といった運動団体にその活動拠点を提供することにあったことは前記のとおりである。
これら運動団体は、同和問題の解決及び同和地区住民の福祉の向上等を目的とするものではあるが、専ら同和地区住民により組織され、同和地区内においてもその住民又は地域内世帯を原則として網羅するような団体ではなく、その構成員が相当に限定された普遍性に乏しい私的団体にすぎない。
しかも、前記イのとおり、京都市とこれら運動団体との不明朗な関係が諸方からの批判を招き、同和行政に対する市民の不信感さえも惹起するに至ったことから、遅くとも平成8年頃以降、京都市としては、とりわけこれら運動団体との関係には、市民からいささかなりとも疑念を持たれることのないよう健全な関係を形成・維持すべきことが強く求められていた」
「貸館事業によって両財団が相当な収益を上げている実情にもかんがみれば、かかる建物の管理運営のために貸付料を免除する公益上の必要性は、相当に減殺されていたと言わざるを得ない。」
「特別施策としての同和対策事業が終結した平成14年4月以降は、京都市としては、一般施策の名の下に実質的な特別施策としての同和対策事業を行うことは厳に慎むべき状況にあり…(中略)…本件材健全化プランが発表された平成16年7月の時点においては、本件各契約の貸付料を全額免除している点を早急に見直すべき状態にあったというべきである。」
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以上の論理により、平成16年7月以降の更新時期の到来以後の無償が違法とされました。
と当時に、解放センターとみかげ会館が、財団法人の名を借りて専ら運動団体の活動拠点として使用されてきた実態も認定し、私的運動団体のために市民の公共財産が使われてきた重大な問題も認定した重要判決です。
長い間の皆様のご支援ありがとうございました。