京都市はなぜオリックス不動産に賃料をまけてやるのか


連載第80回 『ねっとわーく京都』2011年3月号掲載

大河原 壽貴(弁護士)

■住民訴訟の提起

昨年(2010年)12月28日、年の瀬のあわただしい時期に、京都市監査委員会は京都市民から申し立てられた監査請求を棄却するという決定を下しました。

この号が皆さんのお手元に届くころ(2011年2月初旬)には、すでに住民訴訟が提起されているだろうと思います。その監査請求や住民訴訟で問題となっているのは、オリックス不動産株式会社が梅小路公園内に建設中の「京都水族館(仮称)」の土地使用料です。

オリックス不動産が、周辺住民や多くの京都市民の不安や反対の中で梅小路公園に水族館を建設しようとしていることや、そこで計画されている展示手法に専門家から疑問を投げかけられていることについては、すでに本誌でも何度も取り上げられ、掲載されていますので繰り返しません。梅小路公園に建設中の「京都水族館(仮称)」の問題点について、さらに詳しくお知りになりたい方は、本誌2009年9月号、2010年3月号、同4月号に詳しい特集が掲載されていますので、そちらをご覧下さい。

■京都市による低額の使用料設定

梅小路公園は、京都市が保有する公園ですから、そこの一角に私企業が水族館を建設するためには、当然、京都市がこれを許可する必要があります。

京都市はオリックス不動産に対して、2010(平成22)年5月14日付で公園施設設置許可を行っています。その内容を見てみると、単に許可を下しただけでなく、一私企業に過ぎないはずのオリックス不動産に対して便宜を図る内容になっています。

すなわち、オリックス不動産が「京都水族館(仮称)」を建設、運営するための梅小路公園の使用料として、1平方メートルあたり月額214円という極めて低い単価が設定されているのです。

京都市では「京都市都市公園条例」という条例が定められています。この条例により公園設置許可をする場合、公園の使用料を納めさせることになっており、その使用料の額は1平方メートルあたり月額385円以内で定めることとされています。そして、具体的な使用料の設定については、固定資産評価額をもとにした基準額を算出して、その基準額と月額385円のうち低い方の額で決めることとなっています。そして、梅小路公園の場合、基準額は1平方メートルあたり月額378円となります。水族館建設中の使用面積は1万3450平方メートル、竣工後の使用面積は約8224平方メートルです。

そうすると、建設期間中は、本来の使用料は月額508万4100円とされるべきところ287万8300円となり、月額220万5800円も減額されることになります。竣工後についても、本来は月額310万8672円のところを175万9936円となり、月額134万8736円も減額されることになります。この違いは一体どこから来ているのでしょうか。

■恣意的な「要綱」設定

京都市は、オリックス不動産に対して公園施設設置許可決定をするにあたって、これまで定めたことのない「要綱」を、まるでオリックス不動産のため、と言わんばかりに新たに設けました。

その内容は、(1)教養施設については0.7、(2)事業主体が公益法人の場合0.5、営利法人の場合1.0、(3)併設施設が3%以下の場合0.8、3%を超える場合1.0をそれぞれかけて使用料を算出するというものです。

このオリックス不動産のための「要綱」を本件にあてはめると、(1)「京都水族館(仮称)」は「教養施設」なので0.7、(2)オリックス不動産は営利法人なので1.0、(3)併設施設は2.12%なので0.8をそれぞれかけた上で、「教養施設」部分とそうでない併設施設部分の調整を行い、1平方メートルあたりの金額を、基準額の約56%の月額214円と算出したわけです。

しかしながら、こんな「要綱」まで作って、オリックス不動産に対する使用料を減額する必要があるのでしょうか。

■「京都水族館(仮称)」は教養施設か? 地域経済に波及するのか?

「要綱」では、「京都水族館(仮称)」が教養施設であることを理由に使用料が3割減額されています。

そもそも、なぜ教養施設なら使用料を3割減額できるのか、根拠は全く不明確なのですが、それを措いても「京都水族館(仮称)」が教養施設といえるのかどうかについては検討が必要です。これまでの本誌の特集記事でも詳しく述べられてきたとおり、「京都水族館(仮称)」の目玉はイルカショーです。これが、いわゆる生態展示とは異なる展示手法であることは誰の目にも明らかです。まさにショービジネスであり、「京都水族館(仮称)」が、興業集客により営利を目的とする商業施設であることを端的に示しています。

さらに「要綱」では、併設施設(売店など)の面積が全体の3%以内の場合、周辺地域への経済効果が見込まれる、ということを根拠にして使用料をさらに2割減額できるとされています。

しかしながら、私はこの根拠には理由がないと思っています。この手の大型集客施設の場合、多くの顧客は自家用車で施設内の駐車場に乗り付け、そのまま自家用車で帰っていきます。周辺の商店街を歩いて散策するという行動はそもそも想定されていません。大型のショッピングモールができても、地域の商店街に経済効果が及ばないのと同じです。

当初の駐車場構想は、多くの市民の反対にあって撤回せざるを得ませんでしたが、大型駐車場を建設する構想がすべて撤回されたとは思えません。「京都水族館(仮称)」が地域経済を活性化させるというのは希望的観測に過ぎないと思います。使用料を減額する根拠には到底ならないのではないでしょうか。

■京都市はオリックス不動産の金儲けの片棒を担ぐのか

京都市が、わざわざ新たに「要綱」まで策定して、梅小路公園の使用料を減額することには何の根拠もありません。本来支払わなくてはならない使用料が安く上がって、オリックス不動産の利益になるだけです。

本来、地方公共団体の収入となるべき市有地の使用料については、地方財政法4条2項において「地方公共団体の収入は、適実且つ厳正に、これを確保しなければならない」と定められています。

京都市が、かかる「要綱」を策定して、梅小路公園の使用料を減額する行為は、まさに地方財政法違反です。住民訴訟を通じて、京都市が一私企業であるオリックス不動産の金儲けの片棒を担ぐ行為を改めさせていきたいと思います。