京都マラソン実行委員会について


連載第91回 『ねっとわーく京都』2012年3月号掲載

鈴村 堯(司法書士)

2012年3月11日、京都では、「京都マラソン」が行われます。

そこで、京都マラソン実行委員会(以下「本委員会」という。)は、当日のクルマ利用の自粛を呼びかける「京都市からのお願い」というアンケート署名を京都市民を対象に行いました。

これをうけて、京都市民から、上記署名用紙を市政協力委員に、各町内会を通じて京都市内全域に回覧させた行為(以下「本件行為」という)の実施を決定した職員及び本件行為に要した費用(署名用紙印刷代、送料など)の支出を決定した職員に対して、費用の返還を求めるとともに、署名の収集や集計・分析などの行為も止めることを求めて、住民監査請求が起こされました(2011年10月7日)。

これに対し、監査委員会は、本件実行委員会は、法人でない社団に該当し、京都市とは別個独立の任意団体であることが認められるので、本件行為は、市長等の行為ではなく、財務行為には該当しないとして、本請求を却下しました(2011年11月18日)。

これに関連した事案があります。

岐阜県が行う文化事業などのために設置された、各種実行委員会が管理する、収支予算書等の文書の公開を求めた情報公開訴訟において、名古屋高裁は、一審の非公開を認めた判決を取り消す判決を下しました(2003年12月25日)。

判決の内容は、次のようなものです。

(1)県は、その行う所管事業において、広く県民の参加意欲を喚起するために、実行委員会方式を採用し、各種実行委員会(以下、「委員会」という)が設置された。

(2)その設置には、県が深く関与し、県知事が、委員会の名誉委員、会長などに就任して、その要職を占め、中心的な役割を果たしている。

(3)委員会の事務局は、県の各所管課に設置されており、その事務のほとんどは、県の職員が担当し、委員会において職務上作成すべき文書については、県の担当職員が作成している。

(4)予算(経費)についても、県から支出される負担金が85%以上を占めており、県議会において関係費用等の承認を得ている。

(5)委員会の経理事務についても、岐阜県会計規則に準じて処理し、文書の整理、保管等は、委員会の設置されている所管課で保管されている。

そうすると、県は、委員会の構成員にすぎないということはできず、委員会は、県の事業執行の一方法たる存在であるということができ、委員会の運営等の事務は、県の処理すべき事務にふくまれるというべきである。

この判決を参考にして、京都マラソンの本委員会について検討してみます。

(1)京都マラソンの主催は、京都市と京都陸上競技協会であり、市を挙げての一大スポーツイベントとなっています。

(2)京都マラソンの企画・運営は、本委員会が担当しています。

(3)委員長は、京都陸上競技協会副会長であるが、副委員長には、副市長が就任している。委員には、京都市行財政局総務部長、京都市文化市民局スポーツ担当局長、各行政区副区長など、多くの市の幹部が就任しています。

このことをみても、市が、本委員会の運営に深く関与しているとみることができます。

(4)本委員会の事務局は、京都市文化市民局市民スポーツ振興室に置かれています。市役所の御池通をはさんだ南東側のビルの4階にあります。

私が、本委員会の規約のコピーをもらいに事務局にいったときには、50名を超える職員が忙しく働いていました。

(5)本委員会の運営に要する経費は、京都市負担金、京都マラソンに伴う収入及びその他の収入をもって充てられています。

市の負担金については、市議会で議決された予算の中から支出されているものと思われます。経費の内訳については、具体的な資料がないので分かりませんが、市の負担金が、大半を占めていると思われます。

以上のことからも分かりますように、京都マラソンの実行委員会と岐阜県の実行委員会は、その構成や運営方法などよく似ています。すなわち、本委員会の運営等の事務は、京都市の処理すべき事務に含まれるというべきです。

本委員会は、京都市から独立した別人格であるから、監査の対象にはならないという監査委員会の主張は成り立たないと思います。

このことを今後は、住民訴訟の場ではっきりさせて、市の行ったマラソンアンケートの不正支出を追及してゆきましょう。