学校統廃合はバラ色か? 検証と見直しが必要な時期に


連載第95回 『ねっとわーく京都』2012年8月号掲載

中野 宏之(京都市教職員組合)

はじめに

京都市では、都市部でありながら1990年代後半から、大規模な学校統廃合が行われてきました。そして、近年は小中一貫校(小中一貫教育)を目玉に、第2期の学校統廃合の大波が起こっています。2011年4月、東山区に東山開睛館、2012年4月には、南区に凌風学園が開校しました。そして、2014年には施設一体型ではありませんが東山泉小・中学校が開校します。本当に学校統廃合と小中一貫校は「バラ色」なのか? 最も早く統廃合して、小中一貫校として位置づけられている御所南小学校・京都御池中学校の現状を見ながら、その実態を考えたいと思います。

この間の経過

御所南小学校は、1995年に旧5学区(統合時には4小学校)を統合して開校しました。当時の児童数は664人でした。その後、文科省の「研究開発学校指定」「新しいタイプの学校運営」(コミュニティースクール)指定を受け、2002年度頃から、児童数が急激に増加し始めました。そして、2008年度には、教室不足から6年生が京都御池中に通学することとなり、2011年度には、さらなる児童増加で教室不足となり、運動場にプレハブ校舎と給食室が建設されました。また、少し離れたところに第2運動場がつくられました。

現在、2012年度は児童数1225人、全国屈指のマンモス小学校となっています。また、京都御池中学校は小学校六年生8クラス(御所南小5クラス・高倉小学校3クラス)を受け入れ、市役所の分室となっていた6・7階を学校の校舎として利用しなくてはならなくなっています。

児童数急増の背景にある特別な学校づくり

御所南小の児童の増加の背景には、公立学校(小中学校)に持ち込まれた特別な学校づくりがあります。京都市は、統合校には多額の予算と人員を投入してきました。例えば、屋上に開閉式(屋根)のプールを設置したり、開校当初は、特別な教員配置を行ってきました。2003年度の「NHKスペシャル」の報道でも、「宿題先生」が取り上げられました。その一方で、統廃合されていない東山区・南区などでは、老朽校舎・老朽施設が放置されてきました。これらの学校間格差と市内中心部のマンション建設ラッシュとが重なって、この地域に富裕層が多く移り住むようになり、さらに、周辺地域からの越境入学も横行し、急激な児童増加となりました。

教育環境の急速な悪化

この急速な児童・生徒数の増加は、御所南小学校・京都御池中の教育環境を急激に悪化させてきています。御所南小学校運動場へのプレハブ建設で、①子どもの遊び場が少なくなり、低学年の子どもは危険で運動場に出る時間も制限されています。②第2運動場が離れた場所にあるため、休み時間、体育も部活動も移動に時間を浪費しています。さらに、安全確保のために教職員の負担も増えています。③給食は、京都御池中に御所南小・高倉小から、それぞれ毎日配送しています。④児童数1200人超は、文部科学省が示す小学校の適正規模(12学級から18学級)の2倍以上で、一人ひとりの子どもに焦点をあてた教育は困難と言わなければなりません。子どもの成長には、学級でも学校でもいろいろな役割を担って、経験することが不可欠です。また、大人の目がゆきとどきにくいことは、統合前後の各学校の教職員1人当たりの児童数の比較(表1 注=表は準備中です)でも明らかです。この教育環境悪化の被害者は、子ども自身ではないでしょうか。

今、問い直される学校の役割

御所南小学区では、今後も児童数の増加が一定期間続くことが予想され、市教委も教育環境の改善に頭を悩ませています。一度、統廃合を行うと学校を再開することや、新たに学校建設をすることは極めて困難な課題です。

東日本大震災は、学校と地域の役割を再確認しました。①地域の防災拠点としての学校(歩いて短時間で避難できる場所)、②地域における人と人のつながり(助け合い)の重要性が改めて確認されました。これまでの学校統廃合は、「競争」「効率」をキーワードにすすめられてきました。

社会の価値観が大きく変わろうとしている現在、この教訓に立って、子どもの教育にとって、最適な教育環境とは何か、住み続けられる街づくりのための学校の役割とは何かなど、今まで行われてきた学校統廃合についても、様々な角度からの検証が必要な時期が来ているのではないでしょうか。