震災がれき広域処理で大儲けするのは誰だ


連載第96回 『ねっとわーく京都』2012年9月号掲載

中村 和雄(弁護士)

今回は、京都でも問題となっている宮城県、岩手県からの震災がれき受入問題について、ウオッチャーという観点から調査してきた内容を報告させて頂きます。

3月12日(2012年)と13日の2日間、私は、仙台市、女川町、石巻市を訪問し、震災がれきの処分施設を見学し処理状況を調査してきました。各地域の議員さんたちから説明を受けたほか、仙台市では環境局震災廃棄物対策室の参事の方から詳しく説明頂き、処分場施設の案内をして頂きました。岩手県内の状況は調査できていません。しかし、今回の調査だけでも広域処理について多くの疑問が浮かび上がってきました。

■仙台市の処分施設

仙台市の処分施設には今年4月に門川京都市長も視察に訪れたとのことです。仙台市の施設では来年5月末にはすべての可燃物の焼却が完了する予定とのことであり、余力があるため、今年7月からは石巻地区からの可燃物の焼却も実施とのことです。

仙台市の震災廃棄物は135万トン、うち仙台市が処理する量は103万トンです。このうち不燃物が72万トンあり、そのうちの54万5000トンはリサイクルされるのです。金属類やガラス類、電気器具類、自動車などはすべてリサイクルされます。仙台市では、処分場間の移動のロスをなくすために、広大な敷地の搬入場内に、コンクリートくず、木くず、金属くず、廃家電製品、自動車など10種類以上に分別した仮置き場を設置し、搬入時から分別する体制を整えているのです。可燃物は31万トンであり、うち26万5000トンが3つの震災廃棄物処理施設につくられた仮設焼却炉で燃やされます。井土地区の仮設焼却炉が写真1です。3つの仮設焼却炉はいずれも中古品をリースしてきたものであり、井土地区のものは日立造船(株)から借りたものです。

写真1
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仙台市は、「地元企業の活用による地域経済の復興も念頭に、がれき等の最終処分まで自らの地域内で処理を完結する仕組みを構築すること」として、仙台市が責任をもって計画を立て処理のための各業者との契約を直接行っています。委託業者はすべて地元業者に限定しているのです。震災復興を地域経済の復興に結びつけているといえます。

■石巻市・女川町の施設

これに対して、女川町や石巻市など仙台市を除く宮城県の各自治体は、震災廃棄物処理の事業をすべて宮城県に委託しています。そして宮城県は、自ら責任を持って計画を立て管理をしているのかと思ったらそうではないのです。宮城県は、県内の仙台市を除く地域を7つの地域に分けて地域ごとに一括してゼネコンに丸投げで委託をしたのです。それぞれJVを組むのですが、それぞれの筆頭ゼネコンは、女川町も含まれる石巻地区は鹿島、名取市は西松、岩沼市は間組、亘理市は大林、山元町はフジタ、宮城東部地区はJFEです。石巻地区での委託額が1924億円、すべてをあわせると3433億円で一括委託をしたのです。これだけの莫大な金額が国から市町村、市町村から宮城県を通してゼネコンへと回っています。すべて国の財政負担です。市町村や県には財政負担はありません。したがって、ムダな支出についてのチェックも不十分となっています。そもそも丸投げ委託額の算定根拠となるごみ処分量の算定自体に市町村はまったく関与していないのです。各自治体の議会では、地域復興などもっと重要な案件がたくさんあり、あまり関心が沸かないのだそうです。

石巻の仮設焼却施設には5基の立派な焼却炉が新たに建設されました(写真2、3)。1つの焼却炉だけでも仙台市井土地区の施設の数倍の規模です。こんな立派な施設をつくる必要があるのか非常に疑問です。そして、3433億円の委託金額の中に相当量の広域処理費用が含まれています。広域処理すれば誰が儲かるのか。宮城県がゼネコンと結んだ委託契約書の内容を精査する必要が高いといえます。

写真2
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写真3
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焼却炉が足りなければ、新たに仮設焼却炉の数を増やせば良いように思います。仮設焼却炉設置の場所はいくらでもあるように思います。あえて遠方まで高いコストをかけて運搬して焼却する必要性がどうしてあるのか、まったく理解できません。

女川町ではまだがれきの山がたくさんありました。昨年5月7日に訪問した時点ではそこら中に崩壊建物が存在していたのですが、建物はほとんど解体され、がれきが高い山になって集積されている状態です。海岸部の敷地に選別のための施設が建設されました(写真4,5)。

写真4
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写真5
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手選別ラインは2つあり、それぞれ20人ずつの作業員が手作業でがれきの分別作業にあたっています。作業員の皆さんは地元の方々です。これらの施設がある地域は津波危険地域ということで住民が居住できない地域です。この施設の中には焼却炉はありません。分部された可燃物はトラックで運搬され、一部は東京都の焼却施設に運ばれているとのことです。仙台市で聴取したところでは、震災がれきは海水に浸っていたため塩分を大量に含んでいるので一般焼却施設で焼却するのではなく専用の仮設焼却炉で焼却しているとのことでした。東京都は都内の一般ごみに混ぜて一般焼却施設で焼却しているとのことですが、機械の損傷に影響はないのでしょうか。放射線はもちろんですが、塩分の点も心配です。

わざわざ東京に運搬しなくても、ここに仮設の焼却炉を1つ造ればいいのではないでしょうか。敷地は充分にあります。周囲に住宅は一切ありません。私の疑問を同行頂いた地元の方たちにぶつけると、「そのとおり。誰も反対しない。」とのことでした。なぜ、仮設焼却炉が建設されなかったのでしょうか。地元女川町の皆さんはまったく計画に関与させて貰えていないということです。

何のための広域処理か、現地を視察してわかった気がします。当初計画では4割が広域での焼却処理が必要だとされていました。しかし、今年5月に環境省は震災ごみの処分必要量が当初見込み量よりも大幅に減少していることを明らかにしました。焼却処分必要総量が大きく減少したことが明らかになった今こそ、広域移動の必要性について、きちんと検証することが求められています。税金の無駄遣いを止めさせ、その資金を真に必要な復興支援のための施策に回させなければなりません。