連載第100回 『ねっとわーく京都』2013年1月号掲載
三上 侑貴(弁護士)
1.私と京都
私は出身が青森県で、大学進学と同時に京都にきて、そのまま京都に魅せられて、京都に居ついてしまいました。
私が京都に来て初めに驚いたのは、看板の色が控えめな色であったり、高層ビルがないことでした。大学の友人に聞くと、京都では景観を害さないために建物の色や高さについて規制があるのだと教えてくれました。京都では何よりも景観を重んじ、その考えに店舗も従っている。京都では街全体が「京都」を守っているのだと痛感し、京都がより一層好きになりました。
弁護士になる直前にイタリアのローマに旅行した際、ガイドの方が、「ローマには舗装されていなかったり、車が通ることのできない道路が沢山あります。でも、ローマは、不便さや新しさよりも、文化・歴史を重視しているのです。日本でいう京都ですね」とおっしゃいました。私は、その言葉を聞き、京都という街で働くことができることを誇らしく感じました。
2.私と黒石市
私の地元青森県黒石市には、「こみせ通り」という通りがあります。この通りは、黒石藩政時代から今に残る木造のアーケード状の通路で、「日本の道100選」にも選ばれたことがあり、平成17年に文化庁による重要伝統的建造物群に選定されました。しかし、私は地元にいるときには、この通りの価値に全く気付いていませんでした。それどころか、古い建物ばかりで、流行の物が売っている店もないため、早く開発が進まないかなとまで思っていました。
しかし、帰省した際、「こみせ通り」を久しぶりに通りました。地元に住んでいた時は、ただの通りだと思い素通りしていましたが、改めて見てみると、なかなか趣があるではありませんか。ちょうど来ていた観光客の方に、「私は高校生の時まで黒石市に住んでいて、小さい時からこみせ通りをいつも通っていたのです」と話しかけてしまい、その方に「こんな素敵な通りにいつも来ることができるなんて素敵ですね」と言われ、嬉しくなったのを覚えています。同時に、価値というのは一見わかりにくいものであることから、壊れてしまって取り返しがつかなくなる前に大切に保存していくことが必要であることを痛感しました。
3.私と岡崎
私は田舎出身なので、人が多くごみごみした所は時々疲れてしまいます。そこで、私は時々自転車で岡崎に行きます。岡崎の静けさや空気は、私の心に穏やかさをもたらしてくれるのでした。
そのような岡崎を、門川市長は、富裕層観光の地にしようとしています。その一環として京都会館が解体されるという話を聞いたとき、私は大きな衝撃を受け、何かしなければいけないと強く感じました。
4.京都会館第一ホールの解体行為の差し止めを求める闘い
京都市の住民は、京都会館第一ホールの解体行為の差し止めを求めて住民監査請求をしましたが、棄却され、その後京都会館解体差止訴訟弁護団が結成され、私はすぐに参加しました。
弁護団は、地元住民、一般市民有志、建築関係者有志とともに、運動づくり・訴訟準備について検討を重ね、同年8月13日、合計112名の市民を原告として、京都地方裁判所に住民訴訟を提訴しました。
同月26日、イコモス(ICOMOS=国際記念物遺跡会議。ユネスコの世界文化遺産に関する諮問機関としてのNGO)の20世紀遺産に関する国際学術委員会が、門川市長宛てに、京都会館再整備計画に関する意見書を送付しました。同意見書では、20世紀の日本におけるもっとも重要な建築家の一人である前川國男の代表作品の一つとして京都会館の文化財としての重要性を位置づけたうえで、再整備計画に基づく建て替えは、文化財としての価値に対して「取り返しのつかない害を及ぼし、美と調和を破棄する」として危機遺産警告を発令する可能性を示唆し予告しました。同年9月10日には、日本イコモス委員会も見解書を出し、同委員会内に小委員会を設置して課題検討を行うことになりました。
イコモスは、たとえ世界遺産に登録されていなくとも、歴史的・文化的価値ある建物を毀損する動きには敏感に反応し、その保全管理を目指す活動を展開しています。近代遺産についていえば、イコモスが警告の対象とするのは、日本では京都会館の事例が初めてで、世界でも3回目の事例とのことです。京都会館をめぐる動向は世界からも注視されているのです。
弁護団としては、裁判所に計画審理を求め、解体工事が終わるまでの早い段階で判決をするよう求めています。また、裁判外でも、皆さまと連携して、京都市に再考を促し解体工事をストップさせる運動に取り組んでいくつもりです。
私が京都に魅了されたのは、ストイックなまでに、価値のあるものを守ろうとする心がけが街中に満ち溢れていたからでした。私の好きな京都が、今、壊されようとしています。第二の故郷ともいえる京都で、京都会館を守ることは、京都を守ることの第一歩なのだと強く決意しています。