連載第102回 『ねっとわーく京都』2013年3月号掲載
井上 吉郎(〈WEBマガジン・福祉広場〉編集長)
京都マラソンの「赤字」を税金で穴埋め
3月10日に第2回京都マラソンがおこなわれる。第1回マラソンは2012年3月11日に行われたが、これに関する署名押しつけ事件が訴訟になっている。いきさつを本誌前号「京都マラソン署名用紙に付された『京都市印刷物番号』」(畑地雅之)が述べている。
「赤字」の背景にあるもの
僕が注目したのは決算だった。2012年5月19日『京都新聞』は“京都マラソン2億円赤字 安全対策費膨らむ”との見出しで京都マラソン2012の決算見通しを伝えた。<大会経費として市の負担金2億5千万円と参加料収入1億5千万円を合わせた4億円の予算を組んだ。ところが、交通安全対策費や大会運営費などの支出が増大したことで決算見込額は約6億5千万円となり、寄付金などの増益分を充てても2億3千万円の予算不足が生じる>と新聞は報じた。<緊急車両対策やランナーの安全確保対策を充実させたことで事業費が膨らんだためで、市は「安全対策に万全を期した結果であり、見通しが甘かった」としている。市は予備費で補?する方針>とも書いている。
「充実させた」ので事業費が膨らんだということだが、歴史都市・京都市北部で1万5000人ものランナーが走るとどうなるかは「想定内」のこと、計画の段階からわかっていた。「安全対策万全を期した結果」というがランナーの安全確保は主催者なら当たり前のことだ。
「見通しが甘かった」とも言っているが、甘かったのは、予算を超えても京都市が何とかしてくれるだろうという体質ではなかったか。そこには市民の税金という感覚が欠如していた。さらに許しがたいのは、巨額の赤字を予備費の流用で穴埋めした京都市の姿勢だ。
「10万円出走権」は市民マラソンにふさわしくない
第1回マラソンの「赤字」を教訓として、京都市は経費節減と増収策を打ち出した。参加費の引き上げ、協賛金の増収、そして「10万円出走権」の販売だった。
8月18日付『京都新聞』は“京都マラソン 経費の足しに/10万円寄付で出走権 ”との見出しで、2013年3月の京都マラソンの「出場権」を、500人に渡すことを報じている。これは10万円以上寄付すると出場権を得るという方式で、ペア券と合わせて5000万円の「寄付」が見込めるという。主催者はこれを「京都マラソンチャリティランナー基金」と呼んでいるが、「チャリティー」とは名ばかりで、実際は「くじ引きなし無条件出場権」を金で売ることにつながる。ちなみに11月末までの申込者は、定員500人のところ75人(締切日は2013年1月11日。入金した人は、目標に及ばなかった)。
市民マラソンの優れた点は、お金の多寡やタイムで差別しないことにある。10万円以上「寄付」をすれば「くじ引きなし無条件出場権」が転がり込んでくる。<スポーツ施設の整備、その他のスポーツの振興に関する事業の実施に必要な財源に充てるため、京都市において「京都市スポーツ振興基金」が設けられています。/このたび、同基金に10万円以上寄付いただいた方、または寄付いただいた方が指名された方に、「京都マラソン2013」に無抽選で出走することができる特典がついている寄付金>と「京都マラソン2013」のホームページに書いてある。
「くじ引きなし無条件出場権」を10万円で売ることになる制度への違和感、忌避感、嫌悪感が背景にある。金の多寡で出場に差をつける方式は、歴史都市・京都の市民マラソンにふさわしくない。
既述したように、「京都市印刷番号」に並んで問題になった実行委員会の「赤字」問題だ。「別個独立」の団体がつくった巨額「赤字」を、税金で穴埋めするというものだが、このことについて、京都市は以下のように述べている。≪京都市が本件実行委員会に対し支出することとした増額部分については、京都マラソンの実施に当たり、警備員の増員など徹底した安全対策を実施した結果発生した経費であり、京都市が主催者として負担金を増額したことは、何ら違法なものでないことはもとより、この事自体、本件実行委員会の独立性を否定する根拠とはなりえないものである≫。予算4億円の60%にもあたる巨額の「赤字」全額の「補てん」は、「別個独立」の団体ではあり得ない。「警備員の増員など徹底した安全対策を実施した結果発生した経費≫だから当然の措置であったと居直っているが、そのことはコースを決めた段階からわかっていたことであって、警備当局の警告に耳を貸さなかった京都市当局の責任を軽くするものではない。
予算オーバーは事業には起こりうる。しかしながらこの場合は、事前に分かっていたことであって、ほかの「赤字」も問題とは違う。「京都市印刷番号」もそうだが、京都市は“2枚舌”を使っている。署名用紙の作成・回覧等の一連の行為は、京都市と別個独立した団体のものではなく、京都市そのものの行為として行われていたものであるととらえざるを得ず、「別個独立」の組織がやったことだとは逃げられない。
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歴史都市、非戦災都市・京都市北部のマラソンにとって、最重要課題はランナーと観客の安全だ。安全をおろそかにしたマラソンはあり得ない。