監査委員の果たすべき役割とは?


連載第108回 『ねっとわーく京都』2013年10月号掲載

諸富 健(弁護士)

2013年5月号の「ウォッチャーレポート」で中村和雄弁護士が報告しましたが、京都市住宅供給公社(以下「公社」)は、向島市営住宅の空家整備について、ほぼ全て特定の業者だけに発注していました。平成21年度から平成23年度にかけて、向島市営住宅の6つの街区では677件の空家整備工事があったのですが、そのうち3件を除いた674件の工事をわずか4つの業者だけに発注していたのです。この4業者に支払われた工事代金は、合計約1億3200万円にも上ります。

そこで、弁護士4名が請求人となって、このような不適正な業務執行について監督する責任を果たさず、漫然と委託料を支出した門川大作京都市長以下の管理者に対し、損害賠償請求をするなどの必要な措置を取ることを求める住民監査請求を行いました。これに対し、京都市監査委員は、請求を却下しました。すなわち、違法かどうかの内容について判断することなく、門前払いしたのです。

地方自治法上、住民監査請求は、正当な理由がある場合を除き、違法又は不当な財務会計上の行為があった日から1年以内にしなければなりません。京都市監査委員は、情報公開請求によって開示された公文書から本件支出の概要を知った請求人らは一般住民とは異なる事情があり、公文書が開示されてから73日後に提出された上記監査請求は、相当な期間内に行われたものではないから、正当な理由が認められないと判断しました。

向島市営住宅の住民有志にこの却下通知を見てもらったところ、このような不正な支出を初めて知ったが、特定の業者のみを優遇するなど許されないと考えられ、却下通知の約1カ月後、住民監査請求を行いました。ところが、京都市監査委員は、この請求についても却下しました。

その理由は以下のとおりです。

京都市が公社と市営住宅の管理代行協定を締結し、これに伴う経費の支出をしていることについて、市のホームページに掲載して閲覧に供している。また、公社が特定の業者だけに発注していることについて監査請求がなされ、その結果通知については2012年12月21日から市のホームページに掲示している。したがって、同日ころには住民が相当の注意力をもって調査すれば、本件支出の存在・内容を知ることができた。そうすると、同日から143日後に提出された上記監査請求は、相当な期間内に行われたものではなく、正当な理由が認められない。

こんな理由がまかり通れば、住民は、不正な支出が行われていないかどうか、常に市のホームページをチェックしなければならないことになります。しかし、一般住民が、膨大な情報が掲載されている市のホームページに常時くまなく目を通して、不正な支出の有無をチェックすることなどできるでしょうか。そんなことは事実上不可能です。監査委員の判断によれば、住民が、住民監査請求によって地方公共団体の違法な行為を是正しようとする道を閉ざすことになります。

住民が、地方公共団体の違法な財務会計上の行為に対して住民訴訟を提起する前に、必ず住民監査請求を行わなければなりません。その趣旨は、裁判所に判断をしてもらう前に、監査委員に監査の機会を与え、違法な行為を当該地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正することにあります。先に述べた京都市監査委員の判断は、住民に対して不可能を強いる要求を課して、本来果たすべき役割を自ら放棄するものです。地方公共団体の自浄作用に期待した上記趣旨に反することは言うまでもありません。

そもそも、本件の問題は、公社が特定の業者だけに空家整備工事を発注したことについて、京都市が監督責任をきちんと果たしていたのか、その違法性を問うことにあります。この点について、裁判所がしっかりと内容を審理して実質判断を下すためにも、京都市監査委員の門前払いは決して許されません。健全な財政支出を目指すこの闘いに、是非ご注目ください。