門川市長の責任を認める! 京都市保育所民営化事件


連載第120回 『ねっとわーく京都』2014年11月号掲載

諸富 健(弁護士)

京都市は、市営保育所の民営化を積極的に進めていますが、その動きの中で違法な公金支出がなされ、その点について門川市長の責任を認める判決が下されましたので、報告いたします。

京都市は、市営保育所の民間保育園への移管を進めるに当たり、行政独自の判断で設けることができる要綱を作成して、「京都市営保育所移管先選定等委員会」(以下「本件委員会」といいます。)を設置しました。そして、各分野の有識者4名を委員に選出し、条例に基づくことなく、各委員に対し報償費を支出してきました。

しかし、どの市営保育所をどういう法人に移管するのかといった重要な問題について審査したり調査したりする機関については、その重要性から地方議会を通じたチェックという民主的統制に服する必要があります。そのため、地方自治法では、「附属機関」を設置する場合には、地方議会が定める条例に基づかなければならないと定められています。そこで、条例によらずに本件委員会を設置して当該委員に報償費を支出したのは違法な公金支出であるとして、訴訟が提起されました。

京都市は、一貫して、本件委員会は「附属機関」に該当しないと主張してきました。ところが、裁判が係属している最中に、京都市子ども・子育て会議条例が改正され、本件委員会は同条例が定める「附属機関」となりました。この条例改正の前後で、委員の構成は変わっていませんし、職務内容も全く同一でした。

それでも京都市は、条例改正によって本件委員会が「附属機関」に位置づけられたとはいえ、条例改正前の本件委員会はあくまで「附属機関」には当たらないと言い張り続けたのです。このような主張が通るはずがないことは、誰が考えても明らかです。

本年(2014年)6月24日、京都地方裁判所第3民事部は判決を下しました。裁判所は、当然のことながら、条例が改正される前から本件委員会が「附属機関」に該当し、条例によって設置されるべきものであったと判断しました。

その上で、裁判所は、門川市長は本件委員会が条例によって設置されるべきものであることを知り得たし、当該委員に対して報償費を公金から支出することが地方自治法に違反することも当然に知り得たから、公金の支出を阻止する義務又は阻止させる管理監督義務を負いながら、当該義務に違反して報償費の支出をさせたと判断しました。つまり、判決は、門川市長の義務違反を明確に認めたのです。

ところが裁判所は、結論としては原告らの請求を棄却しました。その理由として、裁判所は、本件各委員がそれなりに活動をしていてそれに対する報償費が条例で定められている額の範囲内にとどまっており、京都市も各委員の労務の提供によって利益を受けているのだから、京都市には損害が発生しているとはいえないと判断しました。

しかし、この判断は、いわゆる「給与条例主義」に明らかに反しています。「給与条例主義」とは、公務員の給与について、住民の代表である地方議会が定める条例に基づいて支給することによって、お手盛りによる給与支給を防止し財政の規律を保つという考え方です。この考え方からすれば、たとえ京都市が対価を受けていたとしても、条例に基づくことなく報償費を支出すること自体違法無効です。

この点で、今回の判決は重大な誤りがあると言わざるを得ません。

もっとも、この判決に対しては控訴をしませんでした。なぜなら、門川市長の責任を明確に判断していること、そして、訴訟係属中に条例が改正されて本件委員会が条例の根拠を持つことになり事実上是正が図られたことによって、本件訴訟の目的がほぼ達成されたと判断したからです。門川市長には、自らの行政執行において義務違反を犯したことをしっかり自覚していただかなくてはなりません。

私たち「市民ウォッチャー・京都」は、今後も行政が違法な公金支出をしていないかどうかを厳しく監視し、適正な行政運営が実現されるよう尽力していきたいと思います。