綾部のNPO法人の行政への過大請求と残業代不払い


連載第139回 『ねっとわーく京都』2016年7月号掲載

塩見 卓也(弁護士)

厚生労働省は、「地域若者サポートステーション」(愛称「サポステ」)という、15歳から39歳までの若者を対象に、キャリアコンサルタントなどによる専門的な相談、コミュニケーション訓練、協力企業への就労体験などによる、就労支援の事業を行っています。サポステの運営主体は、都道府県の推薦により、厚生労働省が委託した全国のNPO法人や株式会社です。委託を受けたNPO法人等は、厚生労働省との間の委託契約に基づき、国から運営資金の支給を受けます。

この「サポステ」、京都府北部においては、綾部市に、「あやべ若者サポートステーション」(あやサポ)というものが設置されていました。しかし、2016年3月8日の京都新聞の記事では、その「あやサポ」は、運営するNPO法人に不正運用があったとの通報をきっかけに、3月末で閉鎖されることになったこと、厚労省が委託費の返還命令も視野に調査していることが報道されました。さらに、同月29日の京都新聞ネットニュースでは、厚労省が同日、過大な人件費請求があったとして、「あやサポ」を運営していた2法人に対し委託費計1182万円の返還を命じ、契約を解除したと発表したことが報道されました。

「あやサポ」は、2008年からNPO法人「あやべ福祉フロンティア」が受託し、実質的にNPO法人「まごころ」が運営していました。報道によれば、2013年度から2か年分だけで、「あやべ福祉フロンティア」は委託費計約5800万円のうち436万円が不適切とされ、「まごころ」は委託費計約5600万円のうち746万円が返還対象とされたそうです。厚労省によると、遅刻や早退した時間も含めて出勤扱いとしたり、京都府の事業に従事した日時の人件費が計上されたりしていたケースがあったということです。他方、京都府も、「まごころ」への事業委託費の使途が適切か調査しており、京都新聞の調べでは、2014年度に京都府から「まごころ」に委託されたり、交付金を出したりした事業数は10あり、総額は約6750万円に上るとのことです。

これら2法人を実質的に取り仕切っていたのは、「まごころ」の元副理事長である、塩見麻理子綾部市議でした。

そして実は、私は、この2法人で働いていた方からの依頼で、この2法人の残業代不払い事件の代理人をやっていました。つまり、この2法人は、法人で働く人に長時間労働をさせても残業代を支払わず、他方で厚労省の「サポステ」事業ではない業務で働かせても「サポステ」の仕事であるかのように装って国に委託費を過大請求していたということになります。

私が受けた残業代事件は、支払を求めるにあたり、形式上は雇い主たる事業者が2つあることがハードルでした。

勤務先事業者が1つであれば、単純にその事業者に対し未払残業代を請求すればすみますが、形式上「ダブルワーク」のようにされていると、「どちらの法人にて何時から何時まで働いたのか」というところまで明確にならないと、それぞれの法人にいくらの残業代を請求できるかが明らかにならないからです。

依頼者の方の主観では、2つの法人は「どちらも塩見麻理子が経営している、同一事業者みたいなもの」という感覚なのですが、法的に請求権を明らかにしようと思えば、この点を明らかにしなければなりません。

そこで、私は、依頼者の就労に関する事実関係と法律関係について整理した文書を作り、この依頼者とともに、2法人の事業場を管轄する福知山労働基準監督署に、労働基準法違反に基づく是正申告を行い、労基署に調査をしてもらうことにしました。

労基署の調査に対し、2法人は、当初は一切協力しない姿勢を示しましたが、依頼者が粘り強く労基署に調査の継続を求め、労基署が2法人に是正勧告を行い、最終的に2法人が依頼者に対し未払残業代を支払うに至りました。

2016年3月8日の京都新聞では、京都府内では昨年12月にも、亀岡市の「京都丹波サポステ」で不適切な経理処理が確認されたとして、運営するNPO法人に厚労省が約800万円の返還を命じ、契約解除としたことが報道されています。「サポステ」の運営法人が不適切な経営を行っているという事例は、「あやサポ」だけではなく、ほかにもあるということです。

「若者の就労支援」は、それ自体は正当な目的に基づく公的事業だと思います。しかし、それが事業者への公金不正流出の仕掛けとなってはいけません。また、「若者の就労支援」を行う事業者が、長時間労働と残業代不払いで就業者を搾取するなど、もってのほかです。「サポステ」の事業委託が適正に行われているのか、市民の監視が必要といえます。