京都市教育委員会 分割発注訴訟で和解が成立──違法の工事契約を正す


連載第121回 『ねっとわーく京都』2014年12月号掲載

吉本 晴樹(弁護士)

公共契約の分割発注は、古くから行われてきた手法である。手間のかかる競争入札を回避するための一種の「テクニック」として濫用されてきた。今日では公共契約の公正性・透明性が厳しく求められており、このような手法は廃れたかに見える。しかし、京都市教育委員会(以下、「市教委」という)の内部ではそうではなかった。

市教委分割発注事件とは?

事件の概略は次の通りである。「市民ウォッチャー・京都」が、平成18年度から平成20年度までの3年間に市教委が発注した市立小・中・高等学校の改修工事を調査したところ、そのうち約50校で行われた改修工事146件が不正な分割発注によるものであったことが判明した。

その手法は、同じ工事業者が行う一つの工事を、発注金額が1件200万円以下になるよう複数の工事に分割して発注するというものであった。

その目的は大きく二つあったと考えられる。第一に、一定金額以上の工事については法令で競争入札を行う必要があるが、工事を書類上分割することによって、手間がかかる競争入札を回避して、随意契約にすること。第二に、工事金額が高くなればより上位の役職者の決裁を要するが、分割して金額を小さくすることで、上位役職者まで回付することなく、下位の職員で決裁すること。

市教委では最近まで分割発注の手口が漫然と繰り返されてきたが、その背景は上のような「利点」があったものと推測される。

市との和解が成立

「市民ウォッチャー・京都」では、市に対する情報公開請求および住民監査請求を経て、2011年11月、京都地方裁判所に住民訴訟を提起し、司法の場で分割発注の実態を追及してきた。そして、この度、京都地方裁判所において、次の内容を含む和解が成立したのでご報告したい。

和解条項において、市は、

「市教育委員会事務局総務部教育環境整備室において、市立学校の施設に係る改修、修繕等の工事に係る事務に関し、本来は競争入札の方法により工事請負契約を締結する必要があるものについて、一体的な工事を複数の工事に分割するなどして、競争入札を行わずに、随意契約の方法により小規模修繕契約を締結する不適切な処理が長年にわたり実務慣行として行われてきたこと」を認めた。

分割発注の手法が「不適切」であったこと、そしてそれが長年の「実務慣行」として行われてきたことを市が正面から認めた意義は大きい。

その上で、和解条項で、市は、「市民ウォッチャー・京都」が行った住民監査請求に対する監査結果を受けて、すでに次の①〜③の再発防止策を講じていることを確認の上、将来に向けて次の④を確約した。

①建築・土木等の専門的知見を有する技術職員の上記教育環境整備室への配置
②工事種別に応じた事務及び工事業者の選定
③見積り価格が200万円を超える市立学校施設の修繕について工事入札案件とする。
④将来にわたり、法令、規則等に定められた契約における競争性、公正性、透明性等を担保するための規制を遵守し、再発防止に努める。

不正を断罪する判決

今回の和解成立に至るまでに、いくつかの小・中学校で行われた工事については先行して審理を行った上、一部判決(複数の請求がある訴訟でその一部分を切り離してする判決)が下されている。N中学校校舎改修工事についての2012年京都地裁判決は、

「本件各契約は、一個の契約が、随意契約によって行える範囲内であり、かつ、総務課長の専決事項の範囲内である200万円以下の金額に抑えるため、意図的に工事を細分化し、各契約の価格が200万円以下になるように割り付けた上で締結されたものというほかなく、このような手法を許すときは、法令が随意契約によることができる場合を限定した趣旨を潜脱する」と断罪した。

これまでの一部判決では、分割発注の違法性についてはほぼ認められてきている。

もっとも、その決裁を行ってきた市教委事務局の総務課長の責任については、「違法を知りながら契約を締結したと認めるに足りる証拠がない」といった表面的な理由で免罪される判決が多かった。

しかし、O中学校空調設備工事についての2014年京都地裁判決では、総務課長は、

「本来一個の契約でなされるべき本件同一校舎工事の契約が複数に分割されて、専決規程に違反するものであることを容易に認識し得たのであるから……重大な過失があった」と認定された。

分割発注の決裁を行った市教委職員の責任を踏み込んで認定した意義ある判決である。

「市民ウォッチャー・京都」では、これまでも市教委の不正・不祥事を徹底追及してきたが、この分割発注事件もその一つである。分割発注の違法性を断罪する司法判断を得た上で、市に再発防止策を講じさせるなどの成果を踏まえた上での和解解決である。