ノーマイカーデー署名集め


連載第122回 『ねっとわーく京都』2015年1月号掲載

岡根 竜介(弁護士)

2012年に始まった京都マラソンも、2015年で4回目を迎える。今年からは、一部のコースが変更となり、植物園の中や市役所の辺りまでコースになるようだ。

その京都マラソンというイベント導入に辺り、交通渋滞が最大の肝であった。実施できるかどうかは京都府警の協力の有無にかかっていたともいわれている。実際、長時間に亘り市を南北を分断してしまうので、特別な警備が必要になる。

これをなんとしても実現したい京都市は、市民に対して当日車を使わないようにという「ノーマイカーデー」を大々的に宣伝することとなる。

その一つに、今回問題としている署名問題があった。

市政協力委員をフル活用した署名集め

京都市は、京都マラソン2012を開催するにあたり、「京都市からのお願い」と題する署名用紙を回覧して署名を集めた。一般に、署名行為や署名活動は表現の自由や請願権として憲法上保障されている。少し特殊なところは、署名活動と署名行為が対向方向にあり、場合によっては、署名を求められた人のプライバシーや思想・良心との緊張関係を生じることもあるところである。ただ、市民が行うについては憲法上ほとんど問題とならない。ところが、これを行政が行うとなると、個人のプライバシー等に関する情報を行政(権力)が集めるということになり、まさに憲法上の問題が生じる。

京都マラソンを無事に開催するためには、市民の協力が不可欠であろう。大渋滞が発生し、緊急車両などが動けないこととなれば、それこそ一大事である。そのため、当日は「出来るだけ車を使わないようにしましょう」という呼びかけを行うことは、開催する側としては当然のことといってもいい。

しかし、そうではあっても、その呼びかけを、なぜ住所氏名を記載した署名の形式で行わなければならないのであろうか。しかも、『回覧』という方法をとるので、署名をしたか否かは隣近所にも明らかになる。

まぁ、それだけなら、私たちもあえて問題にしなかったかもしれない。ところが、この回覧署名は、「ノーマイカーデー」に賛同するか否か(何台自粛要請に応じるのか)にとどまらず、京都市が進めるまちづくり政策に賛同するかどうかも明示することを求めていた。しかも、2012年春といえば現職市長が立候補をすることがほぼ明らかになっていた市長選挙のある年である。そんな時期に行うことに何の問題意識も持たなかったのであろうか?ある意味、大阪市長の行った密告の勧めよりも、広く一般市民を対象とするだけに、こわい話である。

なお、市長選挙直前の京都マラソン2012では、現職市長の政策宣伝を行っているが、市長選挙のない翌年以降の京都マラソンでは、ポスター等でノーマイカーデーの宣伝はしても、このような署名は行っていない。

京都市はこの署名をしていない?

市長選挙のあるなしにかかわらず、やはりこの署名は違法ではないか、として今裁判中である。先日、証人尋問も行われた。

その訴訟では、京都市は、この署名は、京都市とは別団体である京都マラソン実行委員会が独自で行ったものだから京都市は知らない、という態度をとり続けている。しかし、かなり苦しい主張である。署名用紙の体裁は「〜京都市からのお願い〜」という標題から始まっている。しかも、京都市印刷物番号という京都市の発行するものにしかつけない番号もふられている。京都市から市政協力委員に回覧のお願いもしている。受け取る市民からすれば、京都市が行っていると感じるであろう。それが、実は京都市とは別の団体が独自で取り組んでいると思った人はおそらくなかろう。

ちなみに、京都マラソンは、京都市と京都陸上競技協会(京陸協)が主催し、京都市体育振興会連合会が共催している。一方、京都マラソン実行委員会自体は、いろんな団体の代表者等から構成されているが、事務作業は事務局が担っている。その事務局は、数名のアルバイトを除くと京都市職員で構成される。もう一つの主催団体である京陸協からの事務局員はいない。また、実行委員会規約では、京都市文化市民局市民スポーツ振興室担当部長という京都市職員が自動的に事務局長になると定めている。事務局の部屋も市民スポーツ振興室に置かれる。そして、その京都市とは別団体であるはずの実行委員事務局の仕事をしていても、事務局員らは京都市から給料をもらい、京都市の仕事についての職務免除も受けていない。

マラソン実行委員会が京都市の事業執行の一方法であれば、事務局員らが市から給料をもらって特に問題はない。

しかし、京都市が行った違法行為を、実態を無視して、別の団体がやったことだから京都市はあずかり知らない、というなら話は別ではないか。ちなみに、この署名用紙作成については、京都市のスポーツ振興課でも、作成するとの決定を行っている。