公募型プロポーザル事業について


連載第130回 『ねっとわーく京都』2015年10月号掲載

豊田 陽(自営業)

最近、京都市のホームページ「京都市情報舘」を見ると、公募型プロポーザルというのがやたらと目に付く。公募型プロポーザルとは従来の入札や随意契約とは異なり、内容面で最も優秀な提案をした事業者が選定されるという方法で、たとえば京都市の建設局のホームページを見ると「プロポーザル方式とは高度な技術力や専門的な技術力が要求されるものについて,技術提案を求め,技術的に優れたものを特定する発注方式です」と定義されている。一見、すごく良さそうだが、何か問題はないのだろうか。

増え続けるプロポーザル事業

一度、みなさんにも京都市のホームページを見てもらいたいのだが、「入札・公募型プロポーザル情報」の項目を閲覧すると、次から次へと公募型プロポーザルの募集が出て来る。

京都市役所の情報公開コーナーを訪れて「昨年一年間に各部局がどんな公募型プロポーザル事業を行い、それにどれくらいの応募があり、どれだけの事業費が支払われたのか、わかるような資料はありませんか」と尋ねたが、「いまのところ、そういった資料はないですね」との返事だった。残念ながら、プロポーザル事業の全体を把握する術はなく、京都市のホームページを見ながら、ひとつずつ検証していくしかないようだ。

門川市長、鳴り物入りの古民家再生

そこで、今回は地元の新聞各紙にも大きく取り上げられ、門川市長も鳴り物入りで記者会見(2014年5月12日)を行った祇園新橋の古民家再生事業を取り上げることにする。

あるご高齢の篤志家から京都市に寄贈された民家をどう再生し、活用するかが問われた事業だ。正式名称は「祇園新橋伝統的建造物利活用事業者募集」という。複数の事業者が応募した結果、最終的に「スマイルズ」という東京の会社が最終選考者として残り、この8月8日(土)から「パス・ザ・バトン祇園店」としてオープンしている。

審査基準のひとつに「京都の伝統や文化,景観まちづくり,或いは市民生活にとって利益があると考えられる空間や機能,取組などの公共性に関する考えが明確に表現されており,それを具体化する提案となっているか」とある。そこで実際に訪れてみたけれど、やや微妙…。

デザイナーと審査員がお友達?

ところで、これまた京都市のホームページによると、このお店の内装デザインを手がけたのは、片山正通さんという敏腕デザイナーだ。今回、この公募型プロポーザルにあたっては数人が審査にあたっているが、先の門川市長の記者会見によると「事業者は、6つの評価軸をもとに事業者選定会議において選定していただきます。なお、委員については,放送作家の小山薫堂さん,喜んで引き受けようと言ってくださっています。また,京料理を進化させる気鋭の料理人,京料理「木乃婦」の三代目主人であり,若手料理人のリーダーでもあります髙橋拓児さんほか6名を予定しております」とあり、市長の発言通りなら、小山薫堂さんが事実上の審査員長のような立場だったであろうと推測される。

そこでネットで「片山正通 小山薫堂」と検索すると、複数のブログやホームページにこの2名が同時に出て来る。どうやら審査員の小山さんとこのデザイナーは知り合いらしい。次に最終選考に残ったスマイルズという会社の社長、「遠山正道 小山薫堂」あるいは「スマイルズ 小山薫堂」で検索すると、これまたこの二人が数年前から仕事上のつながりがあることが、ブログや雑誌のインタビューからわかる。

法的には問題ないものの

今回、この審査に当たっては法的には問題は無いし、また京都市民の税金が使われたわけでもない。ただ、事実上の審査員長と最終選考に勝ち残った会社の社長が、実はトモダチだったというのは何か釈然としないのは私だけだろうか。

果たしてこのような選考が、古民家を寄贈した篤志家の意思に沿うものであり、また、門川市長が同じ記者会見で語った「ぜひ、事業者の方には、この建物、この場所に相応しい活用案を御検討いただき、積極的に御提案いただきたいと思います。祇園の、ひいては京都の魅力と品格をさらに向上させるもの、同時に寄贈いただいた大澤さんの心が生かせるようにと考えております。世界に発信し,京都と世界を繋ぐ懸け橋となっていくことを期待しています」に沿うものなのだろうか。

もちろん小山薫堂さんは有名人であり、全国的に活躍されている方なので、他の事業者が選考に勝ち残ったとしても、同じような人脈や繋がりが出て来たかもしれないが、一方で、最終選考の点数2次審査の結果が「1位23点、2位21点、3位20点、4位19点」だっただけに、審査員の顔ぶれが異なっていれば結果もまた違ったのではないかと思われる。

とにかく今回は門川市長のトップダウンで決まったかのような審査員の顔ぶれだったが今後、公募型プロポーザル事業の運営に当たっては審査員選考そのものの透明性が厳しく求められるだろう。透明性、公平性をより高めていかないと、大阪市の交通局のような不正の温床になりかねないと思う。