連載第131回 『ねっとわーく京都』2015年11月号掲載
奥村 一彦(弁護士)
1 事件のはじまり
今年6月16日付けで、「NPO法人田中セツ子京都結婚塾」のホームページで同法人理事長田中セツ子氏が「この度は、事務所の理事が運営経費を不正使用していたことで、皆様にご迷惑おかけした」とのお詫び文が掲載された。不正の中身は「不必要な事務用品や商品券の購入など一部経費支出が架空であったことが判明し、本人に確認したところ、経費の私的流用が明らかとなった」とのことであった。
その「事務所の理事」が、今年4月の京都市議会議員選挙で、左京区から立候補して当選した大西健嗣議員なのである。
2 特別優遇されていた法人
この「NPO法人田中セツ子京都結婚塾」というのは、2014年、「認定」NPO法人として京都市から認定されているが、通常の認証NPO法人と違い、京都府や京都市からの運営補助金がもらえるほか、会員が拠出した会費につき税制上の優遇措置があるというごく少数の優遇NPO法人なのである。京都市には3法人しかないという。法人名に個人名がある通り、京都市議会の元自民党の実力者議員であった田中セツ子氏が法人の理事長である。理事長が京都市議会議長も経験した実力者であることの反映でもあろう、他の理事もそうそうたる面々である。岡野路子(元京都商工会議所女性会会長)、齊藤修(京都新聞社相談役)、上原任(元京都市副市長)など京都の重鎮クラスの人々である。
3 市民の告発と法人の告訴
この法人は、「ダツドク」(脱独身という意味であろうか)を謳い文句に、広い会場を借りて集団見合いをさせる企画を毎年行っていたようであるが、会計報告によるとせいぜい年間1000万円前後の活動しかしていない。その程度の規模であるにもかかわらず、選挙直前の3月9日、240万円余りの不正使用した金員の返還が大西議員からあったことが報道された。
それを受けて、6月23日、大西議員が立候補をした左京区の区民ら45名が京都地方検察庁に横領で後発した。地検は7月1日付けで受理した。
しかし、それだけでは済まないとして、当法人は本年7月13日付けで再度ホームページで「横領された疑いのある額が上記の返還額では到底不足し、さらに相当な額が返金されていないことがわかりました」と公表した。もっとあるというのである。普通は全額を返済し、事を穏便にすませようとするのが「加害者」の行動であるが、返済に窮したのか、額に争いでもあったのか、折り合いがつかなかったことだけは確かである。
ついに法人は横領の被害者として告訴に踏み切り、9月7日付けで地検は受理した。
4 大西氏本人は全面否定
当の本人は、ブログで「党に大変ご迷惑をおかけしました」「引き続き法人に全面協力し、真摯に対応してまいります」との離党挨拶をするだけで、事件については記者会見でもまったく応答せず、総合すると、お金を返したのではなく「預けた」とか「会計責任者ではない」とか「私的流用はない」と全面否定している。
5 市議会で疑惑の張本人が田中セツ子理事長に質問!
京都市議会のくらし環境委員会は参考人として田中セツ子氏を招致し、大西議員の言い分との食い違いを質した。同田中氏は「本人が不正を認めて返金した」「経理事務は元理事が行っていた」など答弁した。
驚いたのは、この委員会に所属している大西議員本人が田中セツ子氏に堂々と質問したのである。前代未聞の光景であったに違いない。横領を指摘されている本人が、横領の告訴をした田中セツ子理事長に質問するなど誰が想像できただろう。
6 市議会の正常化のために
京都市には解決しなければならない行政上の課題はたくさんあるはずである。このような事件がその足手まといになってはいけない以上に、横領疑惑を隠して選挙に出た人物が市民の信頼を得られることはないし、そもそも議員としての資格にかかわる問題である。私たちは、いったいいつまで市民の税金を彼に払い続けなければならないのか、憤懣やるかたない思いである。はやく議員を辞職して市議会が正常に戻ることを祈るばかりである。