京丹波町マーケス補助金の怪


連載第133回 『ねっとわーく京都』2016年1月号掲載

岡根 竜介(弁護士)

1 町長が個人保証した分だけ税金投入

京丹波町議会の9月定例会(2015年)において、第三セクター「丹波地域開発」の負債を補填する議案が、可決承認されてしまった。丹波地域開発株式会社は、あの「丹波マーケス」を運営する会社である。その額は6億700万円になる。このときの議案(一般会計補正予算案9億5400万円)では、ほかにも「京丹波 味夢の里」駐車場整備などの1億6400万円の追加提案も含まれている。

ところで、京丹波町の町長は寺尾豊爾氏である。一方、丹波開発地域株式会社の代表取締役社長はというと、寺尾純氏であり、この人は、サンダイコー株式会社の代表取締役でもある。名字の一致は偶然の一致というわけではなく、いわゆる身内の人で、そのことは、サンダイコー株式会社の初代創業者が、町長寺尾豊爾氏であったことからもうかがえる。

つまり、町長一族で築き上げてきた会社なのである。その上、補填される借入金の保証人は、町長である寺尾豊爾氏である。つまりどういうことかというと、この補填案が通れば、税金の投入で、町長は個人の負債(6億700万)から解放されるという関係にあった。

また、京都縦貫道が連なったことで注目されている「京丹波 味夢の里」の指定管理者はROOFGATE株式会社であり、その代表取締役もまた寺尾純氏である。

当該年度末の丹波地域開発㈱の負債総額は7億8282万円であるが、補填するのは、この内町長が個人保証している高度化資金6億700万円についてである。

2 本当に補填しなければいけないのか

丹波地域開発株式会社は平成4年、第三セクター方式で設立された。いわゆる三セクとは、国や地方公共団体が民間企業と共同出資をすることによって設立した法人を指すことが多い。半官半民の企業ということになる。丹波地域開発が、鳴り物入りで丹波マーケスをオープンさせたのは平成9年である。このとき、12億の借入れ(高度化資金)を行った。三セクの場合、「半官」であるから、一定の公益性を担わなければならないのであり、本当に必要な場合には、公的資金として税金投入もやむを得ないであろう。

それでは、この丹波地域開発の場合はどうであろうか。

9月定例部会の説明資料によると、丹波マーケスが、町民の日常普段の暮らしを支え、京丹波町を訪れた人々に「まちの玄関口」と呼ぶにふさわしい「おもてなし」で憩いの場を提供してきた、とされている。しかし、これは、買い物をする場所を提供してきただけであって、特に持ち上げるような「おもてなし」といえるのかどうか。

また、「地域経済の活性化を牽引」ともあるが、説明の中身は、多くの人が買い物などをしてレジを通ったことと、テナントの大半が町内の事業者であるとするが、テナントの売り上げでいえば、町長創設のサンダイコーの売り上げは他のテナントと2桁も違う(マーケス全体の約60%にもなる)。

また、「雇用創出、納税等により町財政に貢献」とあり、開業以来6〜7億の納税をして貢献とある。しかし、その内4億5900万円は消費税である。この数字は、固定資産税の約2.5倍、法人税の約20倍の数字であるが、よく考えてみれば、この数字は買い物をした町民等が支払ったものである。雇用の場であったこと自体は間違いないであろうが、民間企業が大型店等を営んでも同じことである。

とにかく、この補填の必要性をいうのに強調されているのは、長期借入金返済による資金繰りの困難さである。

しかし、高度化資金の借入は、当初5年間は据え置き(利息もかからない)であり、その5年間が最も売り上げも上がっていた頃である。ところが、この時期の財務状況は全く明らかにしない。マーケス開業3年目である平成11年の売り上げが34億1700万円(この数字がピークとされる)と記載されているだけで、資料すら提出されていない。事業状況などは、三セク(半官半民)であるにもかかわらず、議会にさえ報告されてこなかった。この間得ていたはずの莫大な利益はどこに消えてしまったのか。

それにもかかわらず、補填の必要性として、賃料収入が当初計画通り入らない、特別支出による運転資金不足、未収金(この中には京丹波地域開発の役員が取締役である会社のものも含まれる)、リニューアル資金調達などをあげるが、こんな理由で税金投入が正当化できるものではない。

議会では、町長は「報告義務がなかったことを盾にしてしまった」と議会報告をしてこなかったことを謝罪はしたものの、売り上げが減少傾向になってきた10年分の財務状況しか記載のない説明資料以上の説明はなく、今後の経営計画の提出や住民説明もしなかった。いくら「役員人事の一新が経営刷新に」と今後は好転見通しであると叫んでみても、何らの具体的な提案も根拠もなければ説得力はない。

この議会において、一部議員は会期延長の動議を出したり修正案を提案したりしたが、結局、賛成8反対7という僅差で負債補填が可決された。

この議会はテレビ中継はなく、町民がほとんど目にすることもない。議事録もつくられていない。まさに町民不在という中、6億という町の財政規模からすれば相当高額な税金が、町長一族中心の三セクへつぎ込まれることになってしまった。

そして、町長の興味関心は「味夢の里」へ移っていった。

3 結局なんだったのか

つまりは、町長一族は、京都縦貫道の貫通によりこのままでは「京丹波マーケス」は、上(縦貫道)を素通りされ売り上げが落ちるから、そっちは町に任せ、縦貫道のサービスエリアも兼ねた「道の駅」(味夢の里)で利益を得ようとしているのである。

その際、大きな負担となる「京丹波マーケス」に関わる負債を、マーケスの収益だけでは支払えないから税金で帳消しにして、ついでに(どっちがついでなのかは極めて怪しいが)町長個人の負債も消してしまったのである。