連載第147回 『ねっとわーく京都』2017年4月号掲載
奥村 一彦(弁護士)
1 事件の概要
京丹波町は、平成27年1月9日、①2億8171万円を支出し、第三セクターである丹波地域開発から土地を購入、②同時に「商業集積施設経営安定化補助金」名目で3億2529万円を丹波地域開発に補助し、合計6億700万円が支出されましたが、実はそれが京都府からの高度化資金残額の一括返済に充てられた事件です。
丹波地域開発は、京丹波町も出資して作った第三セクター方式の株式会社です。町民にはマーケスという名前で知られ、現町長が元社長のサンダイコーというスーパーマーケットを中心に、テナント料で経営する会社です。
2 裁判上の争点
今回住民が問題にしている、町の公金6億700万円の丹波地域開発に対する支出は、結局、土地購入名目であれ補助金名目であれ、実質は、京都府からの融資12億円の残額全部を一挙に税金で返済する目的であったことは明白で、土地購入や補助金というのはいわば支出の名目に過ぎません。
いったい、これが地方自治法232条の2「公益上必要がある」支出といえるのかが問題となっています。
3 裁判の経過
裁判は京都地裁第3民事部で行われています。原告が86名という大所帯で、1万5000人の町の人口から見て、町民の関心は非常に高いものと言えるでしょう。
裁判は7回開催されました。まだ、主張の段階ですが、次々と「おもしろい問題」が浮かび上がっています。その一部を次に紹介します。
4 裁判上の論点
論点について、分かりやすく公平に対比して述べます。但し、裁判途上なので双方とも十分な主張・反論を尽くしてはいないことを前提にします。
①経営困難の原因は何か
町の言い分―経営困難の原因は、第三セクター丹波地域開発を設立する際に、丹波地域開発は町から土地を購入したが、それは行政主導であった。今になって京都府からの借り入れ12億円のへの返済の負担が重くなった。経営責任をいうならはじめの計画をした人物らに責任がある。
原告の言い分―創業当初、旧中小企業事業団の指導では全部借地で行えと指導していた。町長の議会答弁では、その指導に従わず自己所有の土地建物が株式会社の本来の姿と町長自身が発言しているではないか。自ら負担を創り出したのではないか。
②京都府からの融資金12億円の返済の可能性はそもそもあったのか
原告の言い分―京都府から12億円もの融資を受けてまで土地建物所有にこだわったこと自体、はじめから計画そのものに無理、あるいはずさんな計画であったのではないか。売上テナント料はせいぜい2億円が天である。
一方、経費は1億5千万円から1億7千万円なので、京都府への毎年の返済金8000万円など到底まかなえないではないか。
町の言い分―当初は返済できると考え、その旨の資料を作成し、審査も通っている。毎年の減価償却引当金を返済に回す計画も不合理ではない。
③町民の理解を得る資料は提出されたか
原告の言い分―総務省指針に基づき、第三セクターが経営危機になった時、まず改善努力及び経営者が最初の法的責任を取る、それでもなお公金を投入することがやむを得ない例外的な場合があるが、抜本的な経営改善はなされていない、経営者としての責任も取っていない、かつ、公金を投入する「やむを得ない場合」でもない、仮に公金を投入するとして十分な資料が議会に提出されたとは言えない。
町の言い分―丹波地域開発は、町に不可欠な買い物施設であり、なくすことはできない。消費税も負担し、貢献している。従って、公金支出に公益性はある。
5 最後に
論点は全部を書くスペースがありませんでした。また、さらに新しい論点が出てくると思います。特に、京都府の融資金の返済については、毎年8000万円、最終支払期限が平成28年で、しかも返済額が5億円となっていました。実態は、8000万円を支払ったのは最初の1回だけで、翌年からはずっと条件変更を続け、5000万円から4000万円の支払いになっていました。
最初の計画でも最終支払い年度は5億円というとても不可能な返済計画を立てていた町もさることながら、このようなはじめから不可能な返済計画を承認して、税金を12億円も融資した京都府もおおいに責任があるのではないでしょうか。
町が議会に6億700万円の議案を提出した時期に、町は京都府ら債権者と会っています。そこで京都府はいったいどのように返済を迫ったのでしょうか。
まだまだ新しい論点が出てきそうです。乞うご期待。