市会議員の海外視察をチェックする


連載第157回 『ねっとわーく京都』2018年3月号掲載

豊田 陽

それでは、さっそく昨年9月に行われた市会議員の海外視察、行き先はフィンランドとエスニアについて考察してみたい。

評価できる点

まだ報告会等が行われていないので、京都市のホームページと自分で情報公開請求した資料に基づいて論じたいが、いくつか評価できる点がある。

ひとつは旅行業者の選定に当たって「公募型プロポーザル方式」を取り入れている点だ。以前の海外視察では数社の見積もりの中から、旅費が高いにも関わらず「総合的」に判断された大手旅行会社が選ばれることが多かった。「総合的」の中身が不明だったが、「公募型プロポーザル方式」を取り入れて、業者の選定の透明化を図っている点は評価したい。

また海外視察の実施に先立って審議会を開催している。招かれた学識経験者は、議員に親しい学者や都合のいい教授を呼んでいるものとばかり思っていたが、実際は市会事務局が選定した3名の学識経験者の中から議員が多数決で選ぶそうである。この点も評価に値すると思う。

公募型プロポーザルの弊害

一方、駄目だなと思う点も多い。まず旅費の値段の高さ。この内容ならエコノミークラス利用で40〜50万円、ビジネスクラス利用でも60万円〜70万円が妥当な料金だと思う。今回も、議員一人当たりの旅費が約100万円。まず「予算ありき」の「公募型プロポーザル方式」の弊害がもろに出ている。では、具体的に気になる点を見て行こう。

航空券代とビジネスクラス

まずエコノミークラスの料金。今回、議員はビジネスクラスで、同行の市職員はエコノミークラスに乗っている。こんな点が市民から批判を受けるのだと思う。職員がエコノミークラスなら議員もエコノミークラスで十分だ。

さて、そのエコノミークラスの料金だが内訳を見ると日本とヘルシンキの単純往復、燃油サーチャージ別で一人27万5千円。海外旅行に少し詳しい人なら、高いな? と思うだろう。ちなみにビジネスクラスは一人48万5千円。

なお北欧のフィンランドは物価やホテル代が高いので宿泊費はホテル名がわからないので、評価しづらいが妥当なところだと思う。

また旅行中、フィンランドの対岸、エストニアの首都タリンを訪れている。ここの旧市街は世界遺産に指定されていて、まるで「おとぎの国」のような美しい場所だ。今回、審議会の議事録を繰り返し読んでみたが、エストニア視察は、どう考えても理由が「後付け」でなかなか納得できるものではない。

せっかくならフィンランドに滞在して、教職員の待遇などについても調査すべきだったと思う。フィンランドの教育に関する本を読めば、子どもの学力が高いのは教育方法だけでなく、教員の待遇が非常に整っているからだということが素人でもわかる。教員が一個人として、こころ豊かに暮らしている姿も、しっかり見て来て欲しかった。

委託料の謎

ところで情報公開請求した資料を読むと、航空券代や宿泊料の他に「委託費」名目で業者に支払った金額が多数ある。

たとえばその中のひとつ「現地視察先の手配」119万9366円。現地の訪問先にアポイント、連絡を入れるための費用かつ北欧の視察先には見学料を徴収するところがあるので、その費用も含んだものだそうだが、それにしても高すぎはしないだろうか? この点に市会議員の海外視察の一番の問題点があると思う。

改善すべき点

なぜ市会議員の海外視察が(改善はされているものの)市民から冷たい目で見られるかというと訪問先の選定や訪問先へのアポイントを旅行業者に丸投げしているからだ。

「公募型プロポーザル方式」の募集要項・業務委託内容に「現地視察先の手配」とあるが、本来この業務は市会事務局や市役所内部の国際交流課が行うべきである。一般のNGOやNPOが海外視察や現地交流を行う場合、視察先の選定やアポイントは、その団体自らが行う。あるいは民間企業が海外セールスを行う場合、企業自らが訪問先を開拓する。

それが「当り前」の姿なのに京都市の海外視察では、いつまでたっても肝心なところを旅行業者に丸投げしている。行政にマンパワーがないので民間のプロの力を借りているのだといえなくもないが、その結果、通常より割高な旅費になっているのではないだろうか。毎回書いているが議員が「自腹」で行くなら旅費のチェックはもっと厳しくなるはずだ。

勉強不足では

また議員がどの程度、下調べをしていくのか、その参考として市会事務局が購入した図書を情報公開請求してみた。

すると購入した書籍の中で今回の視察先に関するのは数冊のみ。「地球の歩き方バルトの国々」、「IT立国エストニア バルトの新しい風」、「フィンランドの教育」というような入門本3冊だけだった。

自費で購入しているのかもしれないし、日々多忙なのかもしれないが、なんだか勉強不足のような気がしてならない。

審議会について

最後に海外視察に「お墨付き」を与える審議会のあり方についても触れておきたい。

ホームページ上に公開されている議事録を読むと、海外視察に行かない共産党の議員は冒頭に反対のコメントを発言した後は、いっさい議論に加わっていない。審議会というのは一般市民が参加できない「特別な場」である。そこで何も発言しないのは、これまた怠慢、勉強不足だと思う。

今回、一行が訪れたフィンランドは教員の待遇が非常にいいことで知られている。繰り返しになるが教員が人間らしい豊かな生活を送ることが子どもの高い学力の一因につながっているのだ。

今回の視察では「教職員の待遇について視察しないんですか?」とか「この委託料っていったい何でこんなに高いんですか?」とか議論に加わって指摘すべきだったと思う。